AIの話になると、ほぼ必ず出てくるのが「ディープラーニング」という言葉です。写真からコンクリートのひび割れを見つける、鉄筋の本数を数える、打合せの録音を文字にする。ここ数年で建設の現場に入ってきたAIの多くは、この技術が土台になっています。

とはいえ、言葉だけが先に広まってしまい、「機械学習と何が違うのか」「うちのような規模の会社に関係があるのか」がはっきりしないまま、という方も多いはずです。この記事では、ディープラーニングの中身を数式や図なしで説明したうえで、建設会社がどこで使えるのか、公開されている導入事例の数値もあわせて見ていきます。読み終えるころには、売り込みを受けたときに「それはうちの現場で使えるのか」を自分で見極める目安が持てるはずです。

ディープラーニングとは

ディープラーニングとは、人の脳の神経回路をまねた「ニューラルネットワーク」という仕組みを何層も深く重ねて、大量のデータからパターンを学びとらせる技術です。日本語では深層学習と呼びます。総務省の令和元年版 情報通信白書でも、深層学習は「複数の層からなるニューラルネットワークを用いて行う機械学習の方法」と位置づけられています。

ここでいう「深い」は、賢さの度合いのことではありません。単純に、データを処理する層が何枚も重なっている、という構造の話です。層が増えるほど、細かい線や色といった単純な手がかりから、「これはひび割れらしい形だ」というまとまった判断まで、段階を追って組み上げられるようになります。

ひとことで言うと

ディープラーニングは、AIという大きな枠のなかにある機械学習の一手法。そのなかでも、判断のための層を何枚も重ねて、写真・音声・図面のような「そのままでは数値にしにくいもの」を扱えるようにした技術です。

機械学習との違いは「見分けどころ」を誰が決めるか

ディープラーニングは機械学習の一種なので、まったくの別物ではありません。両者を分けている一番大きな点は、判断のよりどころになる「特徴量」を、人が決めるのかコンピュータが自分で見つけるのか、という違いです。

従来の機械学習でひび割れを見分けさせようとすると、まず人間が「ひび割れとは、周囲より暗くて、細長くて、枝分かれしている線である」といった見分けどころを言葉と数値にして教える必要がありました。ところが現場の壁には、汚れも、型枠の跡も、配管の影もあります。すべてを人の言葉で書き切るのは、ほとんど無理な作業です。

ディープラーニングは、この手前の工程を肩代わりします。ひび割れが写った写真とそうでない写真を大量に見せるだけで、どこに注目すれば見分けられるかを、層を重ねながら自分で組み立てていきます。写真や音声のようにルール化しづらいものでAIが一気に実用に近づいたのは、この性質のためです。

  • 従来の機械学習:人が見分けどころを設計する。数字の並んだ表(売上、工数、気温など)が得意。
  • ディープラーニング:見分けどころもデータから学ぶ。写真、点群、音声、文章が得意。
  • 必要なデータ量:ディープラーニングのほうが多く必要になりやすい。
  • 説明のしやすさ:従来型のほうが「なぜそう判断したか」を追いやすい。
AI侍AI侍
親方が「ここを見よ」と教え込むのが機械学習、弟子が現場を見続けて勘所を掴むのが深層学習でござる。どちらが偉いという話ではござらぬ。

ニューラルネットワークの仕組み

中身をざっくり分けると、三つの層でできています。入口でデータを受け取る層、途中で情報を整理する層、そして答えを出す層です。途中の層が何枚も重なっているところが「深層」と呼ばれる理由になります。

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    入力層でデータを数値に変える

    写真なら一つひとつの画素の明るさ、音声なら波の強さというように、扱いたいものを数値の並びに置き換えて受け取ります。人間が「ここが大事」と指定はしません。

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    隠れ層で手がかりを段階的にまとめる

    最初の層では線の向きや明暗の差といった単純な手がかりを拾い、次の層ではそれらを組み合わせて角や輪郭に、さらに次の層ではひび割れらしい形に、と少しずつ抽象的なまとまりへ育てていきます。この層の枚数が「深さ」です。

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    出力層で答えを出す

    最後に「ひび割れである確率は○%」「この鉄筋の径はD16」といった形で結論を出します。多くの場合、答えと一緒に確からしさの数値も出ます。

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    答え合わせをして内部の重みを直す

    正解と食い違っていたら、どの手がかりをどれだけ重視するかという内部の設定を少しずつ修正します。これを膨大な回数くり返すことで精度が上がっていきます。

現場で使うときに動いているのは、この最後の答え合わせが済んだあとの状態です。学習は時間も計算力もかかりますが、いったん出来上がったものを使うだけなら、タブレットやスマートフォンでも動きます。

なぜ近年になって使えるようになったのか

ニューラルネットワークという考え方自体は、実はかなり古くからあります。それが一気に実用になったのは、次の三つがそろったからだと言われています。

  • データが増えたこと。デジタルカメラとスマートフォンの普及で、学習に使える写真が桁違いに集まるようになりました。
  • 計算する道具が安くなったこと。もともと画像処理用だった半導体が、層の計算を並列でこなすのに向いていました。
  • クラウドで借りられるようになったこと。高価な計算機を自社で買わなくても、必要なときだけ使えるようになりました。

つまり、技術の発明というより、条件がそろって現実的な値段になった、というのが近いところです。裏を返すと、データが集まらない用途や、そもそも事例の少ない判断は、いまでも苦手なままだということでもあります。

建設現場での使い方

建設は、写真・図面・点群・音声と、ディープラーニングが得意な種類のデータが毎日大量に発生する仕事です。実際に使われている場面を挙げると、次のようになります。

  • 撮影した壁面や橋脚の写真から、ひび割れを自動で拾い出す
  • 配筋の写真から、鉄筋の本数・径・間隔を計測する
  • レーザーで取った点群から、出来形の寸法を割り出す
  • 手書きの日報や請求書を読み取って、文字データに変える
  • 打合せや朝礼の録音を文字起こしして、議事録の下書きにする
  • 現場カメラの映像から、立入禁止区域への侵入や保護具の未着用に気づく

公開されている事例で分かりやすいのが、大成建設のコンクリートひび割れ画像解析技術「t.WAVE」です。高架橋橋脚を対象にした実証では、ひび割れの検出精度は80%以上で、これまで人手でなぞっていたトレース作業の時間を90%程度減らせたと発表されています(出典: 大成建設 ニュースリリース、2021年3月25日)。

ひび割れトレース作業時間の低減率(高架橋橋脚での実証)

▲90%

大成建設 ニュースリリース(2021年3月25日)

配筋検査も進んでいます。大林組は、点群と画像を組み合わせて鉄筋の径や本数を判定するAI配筋自動検査システムを開発し、正答率は約94%、配筋検査業務の作業時間は約36%短縮できたとしています(出典: 大林組 ニュース、2024年5月21日)。三井住友建設も、鉄筋出来形の自動検測システムにAIを載せ、画像から鉄筋の上段・下段を自動で見分けられるようにしたと公表しています(出典: 三井住友建設 ニュースリリース、2025年1月10日)。

AI配筋自動検査システムの正答率(作業時間は約36%短縮)

94.0%

大林組 ニュース(2024年5月21日)

こうした技術は、実験室の話にとどまりません。国土交通省は、性能を検証した点検支援技術を一覧にした「点検支援技術性能カタログ」を公開しており、令和8年4月1日の拡充で54技術が加わり、掲載は合計407技術になりました(出典: 国土交通省 報道発表資料)。画像から変状を見つける技術も、そのなかに含まれています。

点検支援技術性能カタログの掲載技術数(令和8年4月1日時点)

407技術

国土交通省 報道発表資料(令和8年4月1日)

精度の数字をどう読むか

導入を検討するとき、いちばん誤解しやすいのが「正答率○%」という数字です。ここは丁寧に見ておく価値があります。

先ほどの大林組の発表には、続きがあります。全体の正答率は94.0%ですが、AI自身が「確かだ」と判断した回答にかぎると正答率は98.6%で、それが全体の91.5%を占める一方、確度が低いと判定された回答の正答率は41.7%にとどまった、とされています(出典: 大林組 ニュース、2024年5月21日)。

つまり、AIは全体を平らに間違えるのではなく、「自信のないところで集中的に外す」という外れ方をします。だからこそ、確度を色分けで見せるような仕組みが用意されているわけです。使う側の運用としては、全部を人が見直すのでも、全部をAIに任せるのでもなく、確度の低いところに人の目を寄せるのが現実的な落としどころになります。

見積提案を受けたときに聞くこと

「精度は何%ですか」だけでは足りません。どんな条件で測った数字か、外したときにどう気づけるか、確からしさを画面で見られるか。この三つを聞くと、その製品が現場での使われ方まで考えて作られているかが分かります。

メリットと注意点

得意なこと

写真・音声・点群のように、ルールを言葉で書き下しにくいものの判別。同じ作業を大量に、疲れず同じ基準でこなすこと。人が数えたり、なぞったり、転記したりしている工程の肩代わり。

苦手なこと

学習したことのない状況への対応。少ない事例からの判断。そして「なぜそう判断したか」を説明すること。責任の伴う最終判断を任せる相手ではありません。

とくに注意したいのが、学習に使われたデータの偏りです。明るい昼間の平らな壁で学習したAIを、夜間の狭い床下に持ち込めば、当然のように精度は落ちます。導入前に自社の現場の写真で試させてもらう、いわゆる試用期間を必ず取っておきたいところです。

もうひとつは、判断の中身が見えにくいことです。層の内部で何が起きているかを人が読み解くのは難しく、検査記録や報告書に残す場面では、AIの出力をそのまま成果物にせず、人が確認した記録を添える運用が求められます。同じ理由で、AIが事実でないことをもっともらしく答えるハルシネーションにも、文章系の用途では気を配る必要があります。

図面・見積・施主情報といった社外に出せないデータを扱うなら、どこにデータが送られ、学習に使われるのかという確認も欠かせません。この点は情報漏洩対策のページで詳しくまとめています。

中小の建設会社が始めるなら

結論から言えば、自社でディープラーニングのモデルをつくる必要はまずありません。写真のひび割れ検出も、配筋検査も、文字起こしも、すでに製品として売られているものを月額で借りるのが早くて安全です。取り組むべきなのは、開発ではなく選定と運用のほうです。

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    手作業で数えている工程を洗い出す

    鉄筋を数える、写真を仕分ける、日報を転記する。人が同じ動作をくり返している工程ほど、効果が出やすく、失敗しても被害が小さくて済みます。

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    自社の現場の写真で試す

    カタログの精度ではなく、自社の現場条件で確かめます。うまくいかない条件が見つかったら、それは失敗ではなく、適用範囲が分かったということです。

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    人が確認する箇所を決めておく

    AIの出力を誰がどこまで確認して記録に残すのかを、導入と同時に決めます。確度の低い判定だけを人が見る、といった線引きが現実的です。

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    使い方を一人の頭に留めない

    担当者が異動したら止まってしまう、というのが一番もったいない結末です。手順を短い文書にして共有しておきます。

どの工程から手をつけるべきか判断がつかないときは、社外の目を借りたほうが早いこともあります。AI番頭では、現在の業務の流れを伺ったうえで使いどころを整理する支援サービスをご用意しています。まずは自社に合うかどうかだけでも、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

よくある質問

Qディープラーニングと機械学習はどう違うのですか
A

ディープラーニングは機械学習の一手法です。層を何枚も重ねた構造を使い、判断のよりどころになる特徴量までデータから自分で学ぶ点が、従来の機械学習との一番の違いになります。表形式の数値データが中心なら従来型で十分なことも多く、新しいほうが常に優れているわけではありません。

Q自社でディープラーニングを開発する必要はありますか
A

ほとんどの中小建設会社では必要ありません。ひび割れ検出も配筋検査も文字起こしも、すでに完成した製品を利用する形が主流です。開発費をかけるより、自社の現場で使えるかを見極めることに時間を使ったほうが成果につながります。

Q学習させる写真は何枚くらい必要ですか
A

用途や求める精度によって大きく変わるため、一概には言えません。既製品を使う場合は自社で学習用データを用意しないケースもあります。自社データで追加学習させたいときは、必要な枚数と撮影条件を提供元に確認するのが確実です。

Q精度は100%にはならないのですか
A

なりません。公開されている建設分野の事例でも、正答率は9割台というのが実際のところです。大切なのは100%を目指すことではなく、外れたときにどこで気づけるかを決めておくことです。確からしさを表示する製品を選ぶと、確認すべき箇所を絞り込めます。

Q生成AIもディープラーニングなのですか
A

はい。文章や画像をつくる生成AIも、層を深く重ねたニューラルネットワークの上に成り立っています。ディープラーニングという土台の上に、大量の文章を学ばせた大規模な仕組みが載っている、という関係で捉えると分かりやすくなります。

関連用語

機械学習

ディープラーニングを含む、より大きな枠組み。3つの学び方から解説しています。

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画像認識AI

ディープラーニングの実力が最も分かりやすく出る分野。現場写真の活用法をまとめています。

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生成AI

同じ技術を土台に、文章や画像をつくる方向へ進んだAI。使いどころと注意点を解説します。

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点群データ

出来形計測や配筋検査で、画像と組み合わせて使われるデータ形式です。

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エッジAI

学習済みのモデルを現場の端末側で動かす考え方。通信が弱い現場で効いてきます。

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ディープラーニングは魔法ではなく、大量の例から見分けどころを覚えた道具です。得意なことと苦手なことがはっきりしている分、当てはめる工程さえ選べば、中小の会社でも十分に手が届きます。まずは自社で一番よく数えているものは何か、そこから考えてみてください。

出典・参考

総務省 令和元年版 情報通信白書「AIに関する基本的な仕組み」

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd113210.html

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大成建設 ニュースリリース「コンクリートひび割れ画像解析技術『t.WAVE』にAI自動検出機能を追加」(2021年3月25日)

https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2021/210325_5085.html

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大林組 ニュース「正答率約94%、高精度な計測が可能なAI配筋自動検査システムを開発」(2024年5月21日)

https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20240521_1.html

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三井住友建設 ニュースリリース「AI搭載リアルタイム鉄筋出来形自動検測システム『ラクカメラ』を開発」(2025年1月10日)

https://www.smcon.co.jp/topics/2025/01101300/

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国土交通省 報道発表資料「点検支援技術性能カタログを拡充」(令和8年4月1日)

https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_002079.html

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