「自社専用のAIを作りたい」と考えたとき、必ず出てくる言葉がファインチューニングです。日本語では追加学習とも呼ばれます。ただ、この手法は万能ではなく、期待する内容によっては選ぶべきではない場面のほうが多いのが実情です。この記事では、ファインチューニングとは何を作り替える技術なのか、よく比較されるRAGとどう違うのか、費用はどのくらいかかるのかを、専門用語をできるだけ避けて整理します。建設会社が公表している取り組みと、2026年に入って起きた大きな方針転換もあわせて紹介します。
ファインチューニングとは
ファインチューニングとは、すでに学習を終えたAIモデルに対して、自社が用意したデータを追加で学ばせ、モデルの中身そのものを自社向けに調整する手法のことです。土台になるのはLLM(大規模言語モデル)のように、あらかじめ膨大な文章を読み込ませて作られた汎用モデルです。そこへ「うちの会社ではこう答えてほしい」という例をまとめて見せ、答え方の癖を付け直します。
たとえるなら、他社で経験を積んだ中途採用の職人に、自社のやり方を覚えてもらう研修に近い作業です。基礎の技能はすでに身についているので、一から教える必要はありません。教えるのは、うちの書類はこの書式、この場面ではこの言い回し、といった自社の型のほうです。研修が済めば、いちいち細かく指示しなくても自社流の仕事が返ってくるようになります。
ここが一番の勘所です。ファインチューニングが得意なのは、文体・書式・分類の基準といった「答え方の型」を定着させることです。逆に、最新の単価表や今年改訂した施工基準のような「中身が変わる事実」を覚えさせる用途には向きません。事実を正しく答えさせたいなら、次に説明するRAGのほうが素直な選択になります。
似た言葉に転移学習があります。もともと別の目的で学習させたモデルの知識を、近い分野の別の仕事に転用する考え方の総称で、ファインチューニングはその具体的なやり方のひとつと位置づけられます。実務では両者はほぼ同じ意味で使われる場面も多いため、言葉の区別そのものにこだわる必要はありません。
ファインチューニングの仕組みを段取りで見る
難しい理屈は抜きにして、実際の作業は次のような段取りで進みます。技術というより、教材づくりと研修の設計に近い仕事だと考えるとイメージがつかみやすくなります。
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お手本を集める
「こういう質問には、こう答えてほしい」という問いと答えの組み合わせを、実際の業務から集めます。過去にベテランが書いた報告書や、実際にやり取りした問い合わせの記録が元になります。ここで集める例の質が、そのまま仕上がりを決めます。
- 2
形式をそろえる
集めた例を、機械が読める決まった形式に整えます。表記の揺れを直し、社外に出せない個人情報や取引先名を伏せるのもこの工程です。地味ですが、全体の手間の大半はここに費やされます。
- 3
追加で学習させる
整えたお手本を土台のモデルに読ませ、内部の設定値を少しずつ調整していきます。計算は自動で進みますが、どのくらい学ばせるかの加減は人が決める必要があります。学ばせすぎると、お手本にしか対応できない融通のきかないAIになります。
- 4
答えを比べて確かめる
学習前と学習後で、同じ質問にどう答えるかを比べます。狙った型に近づいたか、逆に一般的な質問への受け答えが下手になっていないかを見ます。ここで満足できなければ、お手本を見直して繰り返します。
気になるのは、お手本を何件そろえればいいのかという点でしょう。OpenAIの開発者向け資料では、学習に使える例の最低件数は10件とされ、まずはよく練られた50件から始めて結果を評価することが勧められています。50件ほどの良質な例で改善が見られない場合は、データを増やす前に、そもそも取り組む仕事の設定や指示文のほうを見直すべきだという趣旨の説明も添えられています(出典: OpenAI API Docs)。
ファインチューニングを試すときに推奨される学習例の目安(最低は10件)
まず50件
OpenAI API Docs「Supervised fine-tuning」
件数だけ見れば手が届きそうに思えます。しかし現実には、その50件を「答え方のお手本として正しい」と社内で合意しながら選び出す作業に、いちばん時間がかかります。誰の書いた報告書を正解とするのかを決めるのは、技術ではなく社内の判断だからです。
RAGとの違いと選び方
自社仕様のAIを作る方法として、ファインチューニングと並んで挙がるのがRAG(検索拡張生成)です。前者がAIの頭の中を作り替えるのに対し、後者は答える前に社内資料を検索させ、その内容を見ながら回答させる仕組みです。頭を入れ替えるか、手元に資料を渡すか、という違いだと考えると整理しやすくなります。
- 変えるもの:ファインチューニングはモデル自体を変える。RAGはモデルを変えず、渡す資料を変える
- 得意なこと:ファインチューニングは文体・書式・分類の型を定着させる。RAGは社内の事実を根拠つきで答えさせる
- 情報を更新するとき:ファインチューニングは学習をやり直す。RAGは参照するファイルを差し替えるだけで済む
- 根拠の示しやすさ:ファインチューニングはどこから出た答えか追いにくい。RAGは参照元を提示できる
- 初期の手間と費用:ファインチューニングは教材づくりと学習の費用が先にかかる。RAGは資料整理から始められる
「AIが知らない事実を答えさせたい」ならRAG、「答えの形をそろえたい」ならファインチューニング。この一行でほとんどの場面は切り分けられます。社内マニュアルの内容を答えさせたい、単価の考え方を引かせたいといった相談は、ほぼすべて前者です。中小企業がまず手をつけるならRAG、というのが実務上の相場観になっています。
なお、両方を組み合わせる形もあります。答え方の型はファインチューニングで整え、事実は都度RAGで引かせる、という使い分けです。ただし手間も費用も両方ぶんかかるため、まずはプロンプトの工夫だけで足りないか、次にRAGで足りないか、と順に確かめていく進め方をおすすめします。
建設現場での使いどころ
型を覚えさせる技術だと分かると、建設業での使いどころも絞り込めます。決まった書式で、大量に、同じ調子の文章を書き続けている仕事。ここがファインチューニングの持ち場です。
- 日報・作業報告:自社の書き方の癖まで含めて、いつもの体裁の下書きを出させる
- 施工計画書の定型部分:会社ごとに決まっている言い回しや章立てを、毎回同じ品質でそろえる
- 写真台帳のコメント:撮影内容から、社内の記載ルールに沿った短い説明文を付ける
- 問い合わせの振り分け:現場からの連絡を、自社の分類基準どおりに担当部署へ仕分ける
- 専門用語の表記統一:同じ部材や工法の呼び名が人によってばらつく問題を、社内の正式名称に寄せる
共通しているのは、正解の形が決まっていて、しかもその形を言葉で説明しきるのが面倒な仕事だという点です。逆に「今月の資材単価は」「あの案件の設計変更の経緯は」といった、答えが日々変わる問いには効きません。そこは資料を参照させる領域です。
建設会社ではどう使われているか
建設業向けには、汎用のAIをそのまま使うのではなく、業界の言葉づかいに合わせて調整したモデルを使う動きが以前からあります。公表されている取り組みを二つ紹介します。
安藤ハザマは2024年1月、燈が提供する建設業特化の大規模言語モデル「AKARI Construction LLM」を用いた生成AIの社内運用を開始したと発表しています。自社データベースに格納された施工計画書や技術文書などの社内ノウハウに加え、関連する法律・特許・論文も参照できる形にカスタマイズしたとされ、書類のたたき台作成、アイデア出し、資料の要約といった用途で業務効率化につなげているとしています。今後は手書き文書のデータ化も進める方針が示されています(出典: 安藤ハザマ・燈 プレスリリース)。
西松建設も2023年12月に同じモデルの導入を公表しています。通常のモデルでは建設業の専門知識に関する文書の生成品質が落ちるという課題認識が示されており、さらに社内の文書管理に使っているクラウドストレージと接続することで、社内文書を参照したうえでの文章生成ができるようにしたと説明されています(出典: 西松建設 ニュースリリース)。
この二つの例は、業界の言葉に合わせて調整したモデルと、社内文書を参照させる仕組みを組み合わせた形と読めます。公表資料の多くは、どこまでが追加学習でどこからが資料参照かを明示していません。自社で検討するときは、事例の見出しだけで判断せず「型を変えたのか、参照先を足したのか」を切り分けて読むと、必要な打ち手を見誤らずに済みます。
こうした先行例がある一方で、業界全体の足元はまだこれからの段階です。帝国データバンクが2026年5月に公表した調査によると、生成AIを業務で活用していると回答した企業は全体で34.5%、建設業では26.4%と平均を下回りました。活用にあたっての課題として最も多かったのは「情報の正確性」で50.4%、次いで「専門人材・ノウハウ不足」が41.3%となっています(出典: 帝国データバンク)。
生成AIを業務で「活用している」建設業の割合(全体平均は34.5%)
26.4%
帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」
課題の二番手に人材とノウハウの不足が挙がっている点は、ファインチューニングを考えるうえで見過ごせません。教材を用意し、学習の加減を決め、結果を評価する。この一連の作業を担える人が社内にいるかどうかが、そのまま実行可能かどうかの分かれ目になります。
費用の目安と、いま起きている潮目の変化
費用は方法によって大きく変わります。クラウド事業者の機能を使う場合、学習そのものにかかる料金は扱うデータ量に応じた従量制で、小規模な試行なら数千円から数万円の範囲に収まることもあります。ただし総額を押し上げるのは学習料金ではなく、教材づくりの人件費と、学習後に品質を確かめる作業です。外部に委託して自社専用モデルを構築する場合は、数百万円規模になることも珍しくありません。
そのうえで、2026年に入って無視できない動きがありました。OpenAIは2026年5月7日付で、開発者向けのセルフサービス型ファインチューニングAPIを段階的に終了する方針を告知しています。同日以降、過去に利用実績のない組織は新しい学習を開始できなくなり、2026年7月2日には直近の利用がない組織も対象となりました。既存の顧客も、2027年1月6日以降は新しい学習を作成できなくなるとされています。すでに作成済みのモデルでの推論は、土台となるモデルが提供終了になるまで継続できると案内されています(出典: OpenAI API Docs, Deprecations)。
OpenAIのセルフサービス型ファインチューニングAPIで、新規の学習を作成できなくなる期日
2027年1月6日
OpenAI API Docs「Deprecations」(2026年5月7日告知)
これはファインチューニングという技術がなくなるという話ではありません。公開されているモデルを自社の環境で調整する方法や、他のクラウド事業者が提供する仕組みは引き続き存在します。それでも、最も手軽な入口のひとつが閉じつつあるという事実は、検討の順番に影響します。土台となるモデルの指示への追従性が年々上がり、指示文の工夫と資料の参照で足りる場面が増えてきたことが背景にあります。
自社専用モデルを一度作ると、その土台となるモデルや事業者の都合に運用が縛られます。提供が終われば作り直しが必要になり、教材づくりからやり直す事態も起こり得ます。契約前に、土台のモデルが変わったときの移行手段と、学習に使ったデータを自社側で保持できるかを必ず確認してください。
メリットと注意点
第一に、毎回の指示文が短くて済みます。自社の書式を長々と説明しなくても、望む形の答えが返ります。第二に、出力が安定します。同じ質問に対して人や日によって書式がぶれる、という状態を減らせます。第三に、専門用語の扱いが自社仕様になります。業界特有の呼び名や、社内だけで通じる略語を正しく解釈させられます。
「社内規程を全部覚えさせて、何でも答えられるようにしたい」という相談は、ファインチューニングでは実現しません。学習させても、AIは内容を正確に再現するのではなく、それらしい文章を作ってしまいます。事実を扱う用途で無理に使うと、もっともらしい誤答がかえって増えることがあります。
学習させたからといって、ハルシネーションがなくなるわけではない点も押さえておいてください。むしろ、答え方が自信ありげに整うぶん、誤りが見抜きにくくなる面もあります。数量・寸法・法令の要件・金額といった間違えられない部分は、人が確かめる工程を必ず残してください。
もうひとつ、学習に使うデータの扱いも重要です。過去の報告書や問い合わせ記録には、取引先名や個人情報が含まれています。どの範囲まで学習に使ってよいか、外部の事業者に預ける場合の契約はどうなっているかを、着手前に整理してください。この論点は情報漏洩対策の項でも詳しく触れています。
小さく試すなら、どこから手をつけるか
いきなり自社専用モデルの構築を目指すのは、費用の面でも人材の面でも無理があります。順を追って確かめ、本当に必要だと分かってから踏み込むのが現実的です。
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困りごとが型か事実かを見分ける
「答えの形がそろわない」のか「社内のことを知らない」のかを、まず切り分けます。後者ならファインチューニングは選択肢に入りません。この見分けだけで、無駄な投資の多くは避けられます。
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指示文の工夫で足りるか試す
望む書式の見本を二つ三つ添えて頼むだけで、意外と用は足ります。無料で今日から試せて、効果もその場で分かります。ここで解決するなら、それ以上進む必要はありません。
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お手本を50件そろえられるか確かめる
それでも足りないと判断したら、社内で正解とみなせる例を50件集められるか試してください。集まらない、あるいは何が正解か社内で合意できないなら、まだ学習させる段階ではありません。
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小さく試して費用対効果を測る
対象をひとつの書類に絞り、作成にかかっていた時間がどれだけ減ったかを記録します。移行手段とデータの持ち出し可否を確認したうえで、数字が出た領域だけを広げていきます。
AI番頭では、この「型の問題か、事実の問題か」の見極めから、身の丈に合った手段の選定までをご一緒しています。自社のどの業務が向いているかの整理はサービス内容をご覧いただくか、無料診断・お問い合わせからお気軽にご相談ください。
よくある質問
QファインチューニングとRAGは、結局どちらを選べばいいですか?+
社内の事実を正しく答えさせたいならRAG、答えの書式や文体をそろえたいならファインチューニングです。中小企業からのご相談は、聞いてみると前者であることがほとんどです。単価表や施工基準のように中身が更新されていく情報は、資料を差し替えるだけで済むRAGのほうが運用が続きます。両方が必要になる場面もありますが、順番としてはRAGを先に試すことをおすすめします。
Q費用はどのくらいかかりますか?+
学習そのものの料金はデータ量に応じた従量制で、小規模な試行なら数千円から数万円に収まることもあります。ただし実際の負担の中心は、お手本となるデータを整える人件費と、学習後に品質を確かめる作業です。外部委託で自社専用モデルを構築する場合は数百万円規模になることもあります。判断するときは、対象業務にかかっている時間を人件費に換算し、削減できる見込み額と比べてください。
Q学習用のデータは何件くらい必要ですか?+
OpenAIの開発者向け資料では最低10件、まずはよく練られた50件から始めて結果を見ることが勧められています。分類のような仕事では、区分ごとにもっと多くの例が必要になることもあります。ただし件数以上に効くのは中身の質です。書き方がばらばらな例を大量に読ませると、ばらつきごと覚えてしまいます。
Q一度作った自社専用モデルは、ずっと使い続けられますか?+
土台となるモデルの提供が続く間は使えますが、永続的な保証はありません。OpenAIは2026年5月に、セルフサービス型のファインチューニングAPIを段階的に終了する方針を告知しており、既存顧客も2027年1月6日以降は新しい学習を作成できないとしています。作成済みモデルでの推論は土台のモデルが提供終了になるまで、という案内です。契約前に移行手段と、学習データを自社で保持できるかを確認しておいてください。
Q中小の建設会社でも自社専用AIは作れますか?+
技術的には可能ですが、優先度としては後回しで構いません。帝国データバンクの調査でも、生成AI活用の課題として専門人材・ノウハウ不足が41.3%と上位に挙がっています。教材を用意し、学習の加減を決め、結果を評価する人が社内にいるかが実際の分かれ目です。まずは指示文の工夫と社内資料の参照で成果を出し、それでも埋まらない不足が見えてから検討する順序が安全です。
関連用語
RAG(検索拡張生成) とは
ファインチューニングと並ぶもう一つの自社仕様化の手法。中小企業がまず検討すべき理由をまとめました。
詳しく見る →LLM(大規模言語モデル) とは
ファインチューニングの土台になる技術。何を学んでいて何を知らないのかを整理しています。
詳しく見る →PoC(概念実証) とは
本格導入の前に小さく試す進め方。費用対効果の測り方とつまずきどころを解説します。
詳しく見る →出典・参考
OpenAI API Docs「Deprecations」(ファインチューニングAPIの段階的終了、2026年5月7日告知)
https://developers.openai.com/api/docs/deprecations
出典を開く →OpenAI API Docs「Supervised fine-tuning」(学習データ件数の目安)
https://developers.openai.com/api/docs/guides/supervised-fine-tuning
出典を開く →帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」(2026年5月14日公表)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260514-genai/
出典を開く →安藤ハザマ・燈「建設分野に特化した生成AIの社内運用を開始」(2024年1月11日)
https://www.atpress.ne.jp/news/381221
出典を開く →西松建設「文章生成AIを導入し業務で利用開始」(2023年12月1日)
https://www.nishimatsu.co.jp/news/2023/ai_1.html
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