工事台帳はエクセル、日報は紙、協力会社とのやり取りは電話とLINE。会社の情報があちこちに散らばっていて、去年の工事の写真を探すだけで半日かかる。そんな状態を整える道具として、建設会社でよく名前が挙がるのがkintone(キントーン)です。プログラムを書かずに、自社の帳票に合わせた入力画面と一覧をつくれるクラウドサービスで、サイボウズが提供しています。この記事では、kintoneとはどんな道具なのか、何ができて何ができないのか、建設業での具体的な使いどころ、料金の考え方、実際に導入した建設会社の実績、そして中小企業がつまずきやすい点までを順にご説明します。
kintone(キントーン)とは
kintoneとは、プログラムを書かずに業務用のアプリをつくって使えるクラウドサービスです。サイボウズが提供しており、2026年4月に同社が発表した資料では42,000社以上が利用しているとされています。一般的なパッケージソフトのように機能があらかじめ決まっているのではなく、自社の帳票に合わせて入力欄を並べ、一覧や集計、承認の流れまで自分たちで組み立てられるのが最大の特徴です。
kintoneの利用社数。サイボウズが2026年4月22日に発表したkintone AIの正式提供に関する発表資料で示された数字
42,000社以上
サイボウズ プレスリリース(2026年4月22日)
ここでいう「アプリ」は、スマートフォンに入れるアプリのことではありません。kintoneでは、ひとつの帳票=ひとつのアプリと考えます。工事台帳アプリ、日報アプリ、安全パトロールアプリ、といった具合に、用途ごとに小さな箱をつくって並べていくイメージです。ひとつの巨大なシステムを組むのではないので、使わなくなったものは外し、足りないものは足すという育て方ができます。
エクセルは一人で表をつくるには速い道具ですが、複数人が同時に開けない、外出先から見られない、ファイルが「最新版2」と増えていく、という弱点があります。kintoneはデータがクラウド上にあるため、現場の職長がスマホから入力した内容を、その瞬間に事務所が見られます。表計算ソフトの置き換えというより、みんなで書き込む台帳を一冊にする道具だと考えると近いです。
kintoneを支える三つの土台
はじめて触るときに戸惑いやすいのが、機能の呼び名です。おおまかには次の三つを押さえれば、全体像がつかめます。
- アプリ:データを貯める箱。工事台帳、日報、資材の発注依頼など、帳票ごとに一つずつつくる。入力欄は文字、数値、日付、選択肢、添付ファイルなどの部品を並べて設定する
- スペース:関係者が集まる部屋。現場ごとや部署ごとに用意し、そこに必要なアプリと掲示板をまとめる。社外の協力会社を招く「ゲストスペース」もある
- プロセス管理:申請から承認までの流れ。作成、上長確認、承認、差し戻しといった段階を設定すると、担当者にだけ処理待ちの一覧が出るようになる
つないで使うための仕掛け
- ルックアップ:取引先マスタや工事マスタから情報を呼び出す。工事番号を選ぶだけで現場名や施主名が自動で入るため、書き間違いが減る
- 関連レコード:ある工事に紐づく日報や発注をまとめて表示する。台帳を開けば、その現場の動きが一画面で追える
- グラフ・集計:工事番号ごとの労務時間や原価を、条件を変えて集計できる。月次の資料づくりが手作業でなくなる
- 通知とアクセス権:誰に知らせるか、誰に見せるかを細かく設定できる。金額欄は所長と経理だけ、といった分け方も可能
- プラグインと連携:帳票の印刷、勤怠、会計ソフトとの連携などは、外部の追加サービスで補うのが一般的
kintoneでアプリができるまで
実際の作業は、エクセルで表をつくるのに近い感覚です。難しいのは操作ではなく、業務を整理するところにあります。
- 1
いまの帳票を持ってくる
使っている紙やエクセルの様式を机に並べます。工事番号、現場名、作業内容、人数、時間。そこに書かれている項目が、そのまま入力欄の候補になります。この段階で、同じ内容の様式が部署ごとに何種類もあると気づく会社は少なくありません。
- 2
入力欄を並べる
画面左の部品を右のフォームにドラッグして置き、名前を付けていきます。工種や取引先のように毎回同じものを選ぶ項目は、自由入力ではなくドロップダウンにしておくと、あとの集計が一気に楽になります。
- 3
マスタとつなぐ
先に工事マスタと取引先マスタをつくり、日報や発注の画面からルックアップで呼び出す形にします。ここを最初にやっておくと、表記ゆれで集計が合わないという典型的な失敗を避けられます。
- 4
権限と流れを決める
職長は自分の日報だけ、所長は担当現場すべて、経理は金額欄を編集できる、といったアクセス権を設定します。あわせて、申請したら誰に通知が飛ぶかというプロセス管理も組みます。
- 5
一つの現場で試して直す
数人で一か月ほど使い、要らない欄を削って足りない欄を足します。その日のうちに直せるのがkintoneの利点なので、最初から完璧を目指さないほうが結果的に早く定着します。
建設業でのkintoneの使いどころ
建設業は、会社ごと・現場ごとに書類の様式と進め方が違う仕事です。既製の施工管理システムを入れても「うちのやり方に合わない」となりやすく、専用システムを発注すれば費用がかさむ。この隙間を埋める選択肢として選ばれることが多く、次のような使い方が定番になっています。
- 工事台帳・実行予算:工事番号を軸に、受注金額、発注、労務、経費を集約し、粗利をその都度確認する
- 日報・出面:現場からスマホで入力し、事務所での打ち直しをなくす。労務時間はそのまま原価集計に回す
- 工事写真・報告書:撮った写真をその場でアプリに添付し、現場名と工種で後から検索できるようにする
- 安全書類・危険予知記録:ヒヤリハットやパトロール結果を蓄積し、現場をまたいで似た事例を探せるようにする
- 協力会社とのやり取り:ゲストスペースで現場ごとの連絡先を一本化し、電話とFAXの往復を減らす
- 資材・機材と車両の管理:在庫、貸出状況、割り当てを一覧にして取り合いを防ぐ
- 問い合わせ・見積依頼:受付から担当割り当て、提出までを一本の流れにする
現場向けアプリで最も多い失敗は、入力欄を欲張ることです。事務所にとって便利な項目を並べるほど、職人は入力をやめます。最初は選択肢とボタン、そして写真の添付だけで済む形にして、慣れてきてから項目を足す。そのほうが、結局は多くの情報が集まります。
建設会社での導入例
サイボウズが公開している導入事例には、建設や工事に関わる会社の例がいくつも並んでいます。数字が出ているものをいくつか見てみます。
地盤改良や耐震補強を手がけるケミカルグラウトでは、施工現場の管理者が夕方に事務所へ戻り、大量の写真整理とエクセル作業に追われていました。現場ごとにマクロを組んだエクセルが属人化し、担当者が三か月から一年で替わるたびに覚え直しが発生していたといいます。ここに200項目を持つ日報アプリを用意し、約150名が使う形に切り替えました。
ケミカルグラウトで削減できた工数。隙間時間に記録を入力できるようになった結果で、導入後3年間は若手社員の離職が出ていないとされる
年間24日
サイボウズ kintone導入事例「ケミカルグラウト株式会社」
注文住宅とリフォームを手がけるイー住まいの例は、社外とのやり取りにkintoneを使った点が参考になります。協力会社との連絡が電話、FAX、メール、LINEに分かれていて、現場監督と事務スタッフの負担が膨らんでいたところに、ゲストスペースで現場ごとの情報共有の場をつくりました。工事写真帳アプリを用意し、職人が施工状況を直接報告する形にしたことで、現場監督が写真をまとめる作業そのものがなくなったと紹介されています。
イー住まいがkintoneのゲストスペースでつないだ協力会社の数。現場ごとの進捗共有と、業者会向けの一斉連絡を同じ場所で行っている
協力会社70社
サイボウズ kintone導入事例「株式会社イー住まい」
規模の大きい例もあります。工場建設を専門とするグレイ建設は、日本の事務所と米国の本社にメンバーが分かれ、案件の進み具合を確かめるのに深夜の電話や過去メールの掘り返しが必要でした。案件進捗管理アプリに集約したことで、担当外の顧客から問い合わせが来ても、その場でkintoneを開いて答えられるようになったとしています。
グレイ建設が並行して抱えるプロジェクト数。拠点や時差をまたいだ進捗確認を、一覧で見られる状態にした
同時20〜40件
サイボウズ kintone導入事例「グレイ建設」
三社に共通しているのは、いきなり全社の仕組みを入れ替えたのではなく、一番困っていた一つの帳票から手を付けている点です。写真整理、協力会社への連絡、案件の進捗。どれも「探す時間」と「書き写す時間」を削る話であり、そこが減ると残業が減るという順番になっています。
kintoneの料金と、実際にかかる費用
サイボウズの公式サイトに掲載されている料金は、利用者一人あたりの月額課金です。初期費用は無料で、一か月単位の契約ができます。
- ライトコース:1ユーザー月額1,000円(税抜)。アプリ作成や一覧・集計といった基本の機能
- スタンダードコース:1ユーザー月額1,800円(税抜)。プラグインやAPI連携が使え、後述のkintone AIもこのコース以上が対象
- ワイドコース:1ユーザー月額3,000円(税抜)。1,000ユーザー以上の大規模利用向け
- 最低契約はライトとスタンダードが10ユーザーから、ワイドは1,000ユーザーから。30日間の無料お試しが用意されている
ただし、月額の利用料だけで収まるとは限りません。帳票を決まった様式で印刷したい、勤怠や会計ソフトとつなぎたいといった要望が出ると、プラグインや連携サービスの費用が別途かかります。立ち上げを外部のパートナーに頼む場合は、その構築費も必要です。20名で3年使うと利用料だけで100万円を超える計算になりますから、3年分の総額と、専用システムを発注した場合の金額を一度並べて比べると、判断がぶれません。
kintone AIで何が変わるか
サイボウズは2026年4月22日、AI機能群「kintone AI」を正式提供すると発表しました。2025年4月から「kintone AIラボ」の名前でお試し提供されていた機能が、2026年6月14日のアップデートで正式版になったものです。対象はスタンダードコースまたはワイドコースの契約者で、追加料金なしで毎月一定のAIクレジットが付与される仕組みとされています。
- 検索AI:蓄積したデータを検索し、質問に答える。「あの現場で使った材料は」といった問い合わせを、担当者に聞かずに済ませる
- レコード一覧分析AI:一覧に並んだデータの傾向を要約する。日報や点検記録の山から気になる点を拾う
- スレッド要約AI:スペースの投稿を要約する。長い連絡のやり取りを後から追いかけるときに使う
- アプリ作成AI:対話しながらアプリのフォームをつくる。最初の一つで手が止まりがちな会社には効きやすい
- プロセス管理設定AI/アプリ設定レビューAI:承認の流れの設定や、管理者によるアプリ設定の点検を助ける
注意したいのは、AIが答えられるのは、そこに貯まっているデータの範囲だけだという点です。日報が紙のままなら、検索AIに聞いても何も出てきません。AIの機能は、まずデータを一か所に集めた会社が受け取れる果実だとお考えください。仕組みとしてはRAG(検索拡張生成)の解説で説明している考え方に近く、事実にもとづかない答えが混じる可能性は残ります。
メリットと注意点
外注したシステムは、項目を一つ増やすだけでも見積と待ち時間が発生します。kintoneなら、現場から「この欄は要らない」と言われたその場で設定を変えられます。制度も様式も変わりやすい建設業では、この直しやすさが、最初の完成度よりも効いてきます。
手軽さの裏返しとして、誰が何のためにつくったか分からないアプリが社内に溜まっていきます。担当者が辞めた途端に誰も直せなくなる、アクセス権の設定が甘く見えてはいけない金額が見えている、といった事態は珍しくありません。アプリの一覧、管理者、扱うデータの区分を一枚にまとめ、管理者権限は必ず二人以上に持たせてください。
決まった様式での帳票印刷、細かい画面デザイン、複雑な原価配賦の計算などは、標準の機能だけでは実現しにくい領域です。プラグインや外部連携で補えることも多い一方、そのぶん費用と保守の手間が増えます。無料お試しの30日間で、自社にとって一番難しい要件を先にぶつけて確かめるのが確実です。
システムとしての制限値も、公式に公開されています。サイボウズの制限事項のページによれば、一つのアプリに置けるフィールド(入力欄)の上限は500個、登録レコード数そのものに上限は設けられていないものの、件数が増えると動作が重くなる場合があるとされています。外部システムからAPIで読み書きする場合は、一つのアプリにつき1日10,000リクエストという上限もあります。日常の使い方で引っかかることは多くありませんが、他システムと大量に連携させる構想があるなら、設計の前に確認しておくべき数字です。
中小の建設会社が失敗しない進め方
人手も予算も限られる会社ほど、対象を絞って小さく始めるほうが確実です。次の順で考えると、投資の判断がしやすくなります。
- 1
書き写しが多い帳票を一つ選ぶ
全社の業務を見渡すのではなく、同じ情報を二度以上書いている帳票を探します。日報、出面、工事写真のいずれかになることが多く、月に何件発生しているかを一週間だけ実測すると、効果の目安が立ちます。
- 2
つくる人を決めて時間を空ける
パソコンに強い若手が一人いれば足りますが、その人の通常業務を少し減らす手当てが要ります。片手間では止まります。異動や退職があっても続くよう、最初から二人で触る形にできれば理想的です。
- 3
マスタから先につくる
工事マスタと取引先マスタを整えてから、日報や台帳をつくります。順番を逆にすると、同じ現場名が三通りの書き方で登録され、集計が合わないという手戻りが起きます。
- 4
無料お試しで一番難しい要件を試す
簡単な機能から触ると、後になって致命的な制約に気づきます。帳票の印刷様式、会計ソフトとの連携、権限の分け方など、自社にとって外せない条件を先に確かめてください。
- 5
一つの現場だけで一か月動かす
全社に広げる前に、一つの現場や部署で使い切ります。紙をやめられたか、入力にかかる時間が減ったか、といった合格ラインを、始める前に決めておきます。
- 6
台帳をつくってから広げる
アプリの一覧、管理者、扱うデータの区分を一枚にまとめてから、次の業務へ広げます。数が増えてから整理するのは大変なので、二つ目をつくる前に用意するくらいがちょうどよい頃合いです。
一つの現場だけで試す段階の進め方はPoC(概念実証)の解説に、kintoneが属するツール分野の全体像はノーコード/ローコードの解説にまとめています。会社全体でどの業務をどう変えるかという見取り図については、建設DXの解説もあわせてご覧ください。
どの帳票から手を付けると効果が出るのか、kintoneで足りるのか専用システムを入れるべきかの見極めは、社内だけでは判断しにくいところです。AI番頭のサービスでは、現状の帳票と作業量の洗い出しから一緒に進めています。
よくある質問
Qパソコンが得意な社員がいなくてもkintoneを使えますか?+
最初のアプリをつくるだけなら、エクセルで表をつくれる程度の方でも進められることが多いです。ただし、アクセス権の設計や他システムとの連携になると、調べる時間がそれなりに必要になります。社内に担当を置けない場合は、立ち上げの数か月だけ導入支援のパートナーに型をつくってもらい、その後の手直しを自社で行う形が現実的です。
Q施工管理システムとkintone、どちらを選ぶべきですか?+
業務の型がはっきりしていて、既製システムの様式に自社を合わせられるなら、専用の施工管理システムのほうが早く立ち上がります。逆に、様式や進め方が自社独自で「うちのやり方に合わない」となりがちな会社、あるいは工事管理以外の業務も一緒に整理したい会社は、kintoneのほうが向きます。両方を使い、見積や原価は専用システム、社内の申請や記録はkintone、と役割を分けている会社もあります。
Q現場の職人が入力してくれるか不安です。+
最初から文章を書かせようとすると、まず定着しません。写真を撮って送るだけ、選択肢を押すだけ、という形から始めるのが定石です。イー住まいの事例のように、職人が工事写真をアプリに直接上げる運用にすると、現場は撮るだけで済み、事務所側は写真をまとめる作業が消えます。入力する側にも得がある形をつくれるかどうかが分かれ目です。
Qデータはどこに保存されますか。情報漏洩が心配です。+
データは自社のパソコンではなく、サイボウズのクラウド上に保管されます。むしろ、パソコンの紛失やUSBメモリの持ち出しといった事故は減る方向に働きます。実務で注意すべきなのは、アクセス権の設定と、退職者のアカウントを止め忘れないことのほうです。社外の協力会社をゲストとして招くときは、見せる範囲を現場単位に限る設定を必ず確認してください。
Q途中でやめたくなったら、データは取り出せますか?+
各アプリのデータはCSV形式で書き出せます。契約前に確認しておきたいのは、どの範囲のデータを、誰が、どの操作で出せるのかという点です。プラグインで実現している機能や添付ファイルの扱いはツールごとに事情が異なるため、無料お試しの期間中に一度書き出しまで試しておくと安心です。
関連用語
ノーコード/ローコード
プログラムを書かずに業務アプリをつくる開発手法。kintoneはこの分野を代表する国産サービスの一つ。
詳しく見る →建設DX
建設業で何をどう変えるのかの全体像。道具選びの前に押さえておきたい見取り図。
詳しく見る →情報漏洩対策
業務データをクラウド上に置くときに、最低限おさえておきたい考え方。
詳しく見る →どの帳票から着手すれば効果が出るのか、現状の棚卸しからご相談いただけます。
出典・参考
サイボウズ「kintone 料金」
https://kintone.cybozu.co.jp/price/
出典を開く →サイボウズ プレスリリース「サイボウズ、『kintone AI』を正式提供」(2026年4月22日)
https://topics.cybozu.co.jp/news/2026/04/22-19405.html
出典を開く →サイボウズ「制限事項|サイボウズのクラウド基盤サイト」
https://www.cybozu.com/jp/service/restrictions.html
出典を開く →サイボウズ kintone導入事例「ケミカルグラウト株式会社」
https://kintone-sol.cybozu.co.jp/cases/chemicalgrout.html
出典を開く →サイボウズ kintone導入事例「株式会社イー住まい」
https://kintone-sol.cybozu.co.jp/cases/e-sumai.html
出典を開く →サイボウズ kintone導入事例「グレイ建設」
https://kintone-sol.cybozu.co.jp/cases/graykensetsu.html
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