月末になると、原価システムの数字をエクセルに打ち直し、協力会社ごとの請求書と突き合わせ、同じ内容を今度は電子申請の画面に入力し直す。建設会社の事務所で、誰かが黙って片づけているこうした作業は、頭を使う仕事というより「手が空いている人がやる仕事」になりがちです。RPAは、まさにこの手を動かすだけの部分を、パソコンの中のロボットに肩代わりさせる道具です。この記事では、RPAの意味と仕組み、AIやエクセルのマクロとの違い、建設業でどこに効くのか、そして導入がどのくらい広がっていて、どこでつまずくのかを順に整理します。

RPA(業務自動化)とは

RPAとは、Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略で、日本語では「ロボットによる業務自動化」と訳されます。読み方は「アールピーエー」です。人がパソコンで行っているマウス操作やキーボード入力の手順をあらかじめ登録しておき、その通りにソフトウェアが繰り返し実行してくれます。

名前に「ロボット」と付いていますが、工場のアームのような機械を指すのではなく、パソコンの中で動くソフトウェアのことです。人が画面を見て判断しながら進めていた作業のうち、判断のいらない部分だけを切り出して肩代わりさせる、と考えると分かりやすくなります。逆にいえば、手順が毎回変わる仕事や、その場の状況を見て決める仕事は、RPAの担当範囲ではありません

向いているのは「量が多くて手順が決まっている」作業

RPAの効果は、作業の難しさではなく回数で決まります。月に1回しか発生しない30分の作業を自動化しても効果は小さいですが、毎日20件ずつ発生する5分の転記なら、年間で数百時間の規模になります。まずは「面倒な作業」ではなく「回数の多い作業」を探すのが出発点です。

RPAはどうやって動くのか

多くのRPAツールは、プログラミングの知識がなくても手順を組めるように作られています。おおまかな流れは次の通りです。

  1. 1

    人の操作を記録する

    実際にいつも通りの作業をしながら、どのアプリのどのボタンを押し、どの欄に何を入力したかをツールに記録させます。画面の録画のようなイメージですが、操作の中身がデータとして残る点が違います。

  2. 2

    手順書(シナリオ)に組み立てる

    記録した操作を並べ替えたり、「この欄が空欄なら飛ばす」「10件ぶん繰り返す」といった条件や繰り返しを付け足したりして、手順書に仕上げます。多くのツールは部品をつなぐ画面操作で組めるようになっています。

  3. 3

    決めたタイミングで動かす

    ボタンを押したときだけ動かす使い方のほか、毎朝6時に自動で走らせる、フォルダにファイルが入ったら動き出す、といった設定もできます。人が出社する前に集計が終わっている状態をつくれます。

  4. 4

    結果を確認して手直しする

    動かしっぱなしにはできません。処理件数やエラーの記録を見て、システムの画面が変わったときには手順書を直します。この見張り役を決めないまま放置すると、後述する問題につながります。

  • システムAの一覧をダウンロードし、決まった形に整えてシステムBに登録する
  • 受信したメールの添付ファイルを、日付や取引先ごとのフォルダに仕分ける
  • 複数のエクセルを開いて必要な列だけを抜き出し、1枚の集計表にまとめる
  • Webサイトにログインして、決まった項目を毎日入力・申請する
  • 決まった宛先に、決まった様式の帳票をつくって送信する
苦手なこと

手書き文字や写真の内容を読み取ること、文章の意味を汲んで要約すること、例外だらけの案件をその場で判断すること。これらはRPA単体では扱えません。読み取りはAI-OCR、意味の処理は生成AIというように、別の道具と組み合わせるのが一般的です。

AI・エクセルのマクロとの違い

混同されやすい3つですが、担当している役割が違います。ざっくり言えば、マクロは1つのアプリの中だけで動く自動化、RPAはアプリをまたいで人の操作をなぞる自動化、AIは決められていない部分を推測して埋める技術です。

  • エクセルのマクロ:エクセルの中の処理は得意だが、原価システムやWebの申請画面には基本的に手が届かない
  • RPA:エクセル、基幹システム、メール、ブラウザをまたいで操作できる。ただし手順を人が決めておく必要がある
  • AI:手順が決まっていない部分(この請求書はどの現場のものか、この文章の要点は何か)を推測できる。反面、答えが毎回同じとは限らない

実務では、どれか一つを選ぶというより組み合わせになります。紙の請求書をAI-OCRで読み取り、読み取った内容をRPAが基幹システムに登録する、という分担はその典型です。読み取り側の仕組みはOCRの解説に、目的を伝えるだけで手順まで自分で組み立てる新しいタイプの自動化についてはAIエージェントの解説にまとめています。

AI侍AI侍
RPAは命じられた道を寸分たがわず歩む足軽でござる。道そのものを考えるのは主の役目ゆえ、まず道筋を定めてから任せるがよろしかろう。

建設業でRPAが効く場面

建設業は、一つの工事が動くたびに書類と入力の束が生まれる仕事です。しかも同じ情報を、社内システム・発注者の様式・協力会社への連絡と、宛先を変えて何度も書き写しています。RPAが入り込みやすいのは、この「二度打ち・三度打ち」の場所です。

  • 請求・支払:協力会社からの請求データを、原価システムと会計ソフトの両方へ登録する
  • 労務・出面:現場から上がった出面をまとめ、給与や工事別原価の集計表に振り分ける
  • 電子申請:入札参加や各種届出のWebサイトに、社内の台帳から転記して入力する
  • 写真・図面の整理:撮影データを工事番号や工種のフォルダへ自動で仕分けし、台帳に一覧化する
  • 資材発注:定番の資材について、在庫表を見て発注書を作成し、決まった取引先へ送信する
  • 定例報告:週報や月次の工事進捗資料を、各システムの数字を集めて所定の様式に流し込む

実際の建設会社の取り組みも公開されています。長野県の総合建設会社である北野建設では、バックオフィス業務を中心にRPAを展開し、削減効果が報告されています。

総合建設会社でのバックオフィス業務の削減実績。2025年度末までに年間約4,800時間の削減を見込むとされる

年間 約2,000時間

日立ソリューションズ 導入事例「北野建設株式会社様」

同事例では、単に作業が速くなっただけでなく、自動化を検討する過程で業務プロセスそのものの見直しが進み、部署をまたいだ意識の変化につながったという趣旨の説明がされています(出典: 日立ソリューションズ 導入事例)。手順を書き出さないとロボットに教えられないため、結果として仕事の棚卸しが進む、という副次的な効果があるわけです。

RPAはどのくらい広がっているのか

民間企業では、規模によって普及の度合いに大きな差があります。MM総研の調査では、企業規模別の導入率が次のように報告されています。

RPA導入率。年商50億円以上の企業が45%、年商50億円未満の企業が12%(2022年9月時点)

45% / 12%

MM総研「RPA国内利用動向調査 2022」

同社の前年の調査では、年商50億円以上で37%、50億円未満で10%でした。大企業を中心に定着が進む一方で、中小規模の企業では、まだ様子見の会社のほうが多いのが実情です。同調査ではあわせて、RPA導入企業のうち約8割が利用の拡大を望んでいること、推進を担う部門を置いた企業が46%にのぼることも報告されています。使ってみた会社ほど広げたがる一方で、そのためには旗を振る担当が要る、という構図が見えます。

行政の側では、普及はさらに先行しています。総務省が全国の地方公共団体を対象に毎年度実施している調査では、2024年12月末時点で、AIとRPAの両方を導入済みの団体が716、RPAのみの団体が91となっています。自治体類型別に見ると、都道府県と指定都市ではほぼ行き渡っている状況です。

RPAを導入済みの自治体の割合。その他の市区町村は43%(2024年12月31日時点)

都道府県 96% / 指定都市 100%

総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」(令和7年6月30日版)

公共工事の発注者側でこれだけ自動化が進んでいるということは、やり取りする書類やデータの形式が、これからますます「機械が読める形」に寄っていくということでもあります。受注者側でも、紙とFAXを前提にした社内の流れは、いずれ見直しを迫られる可能性があります。

メリットと、つまずきやすい点

RPAの利点は時間の削減だけではありません。人が手で打ち込む工程が減れば、桁の打ち間違いや転記漏れといった、後から探すのに苦労するミスも一緒に減ります。

既存のシステムをそのまま使えるのが利点

RPAは人の画面操作をなぞる仕組みなので、今使っている原価システムや発注者のWebサイトを改修しなくても導入できます。システム間を正式に連携させる開発に比べて、着手までが短く、費用も抑えやすいのが特徴です。長年使ってきた仕組みを残したまま、その周りの手作業だけを減らせます。

作った人がいなくなると動かせなくなる

誰が作ったか分からず、中身も分からないまま動き続けるロボットは「野良ロボット」と呼ばれ、RPAの代表的な問題として知られています。担当者の異動や退職、外注先との契約終了、業務フローの変更に手順書が追いつかないことなどが原因になるとされています(出典: ユーザックシステム)。作った台帳を残し、止め方と直し方を決めておくことが欠かせません。

この管理の問題は業界全体で共有されており、PwC JapanとUiPathは、RPAを安全に運用するための考え方をまとめた「RPAガバナンス構築のためのガイドライン」を公開しています。何体つくったかを把握し、変更の手続きと停止の権限を決めておく、という基本的な備えが要点です。数が増えてから整えるのは大変なので、最初の1体をつくる段階で台帳を用意しておくほうが結局は楽になります。

自動化する前に、その作業自体を疑う

誰も見ていない報告書、二重に保管しているだけの台帳。よくある失敗は、こうした「本当はやめられる作業」を自動化してしまい、無駄な作業が高速で回り続けることです。ロボットに任せる前に、そもそもこの作業は必要か、様式を減らせないかを一度確認したほうが、効果は大きくなります。

中小の建設会社がRPAを始める手順

人手も予算も限られる会社ほど、対象を絞って小さく始めるほうが失敗しにくくなります。次の順序で考えると、投資の判断がしやすくなります。

  1. 1

    回数の多い作業を数える

    1か月に何件発生し、1件あたり何分かかっているかを、1週間だけ実測します。感覚で「大変な作業」を選ぶと、思ったほど時間が浮かないことがあります。数えた結果、上位2つか3つに絞ります。

  2. 2

    手順を紙に書き出す

    どの画面のどこを押し、どの欄に何を入れるかを、他人が読んで再現できる粒度で書きます。ここで例外処理(金額が空欄のとき、取引先名が一致しないとき)が洗い出せるかどうかが、後の成否を分けます。

  3. 3

    一つの業務だけで試す

    いきなり全社に広げず、一つの業務を選んで実際に動かします。「何時間減ったら本採用にするか」の合格ラインを、始める前に決めておきます。この試し方には型があります。

  4. 4

    台帳と担当を決める

    つくったロボットの一覧、動かす時間、担当者、止め方を1枚にまとめます。担当は専任である必要はありませんが、不在時に誰が見るかまで決めておきます。

  5. 5

    浮いた時間の使い道を先に決める

    空いた時間を何に充てるのかを決めておかないと、効果が実感されないまま「よく分からない出費」として扱われます。残業を減らすのか、点検や見積の精度に回すのか、方針を示しておきます。

特に大事なのは、一つの業務だけで試す段階です。合格ラインの決め方や進め方はPoC(概念実証)の解説にまとめています。また、RPAはあくまで手段の一つなので、会社全体でどの業務をどう変えたいのかという見取り図があると、投資の順番を決めやすくなります。その考え方はDXの解説で整理しています。

どの業務から手を付けるか、RPAで足りるのかAIと組み合わせるべきかの見立ては、社内だけでは判断しにくい部分です。AI番頭のサービスでは、現状の作業量の洗い出しから一緒に進めています。

よくある質問

QRPAとAIは、どちらを先に入れるべきですか?
A

手順が決まっている作業が多いなら、RPAのほうが着手しやすく、効果も測りやすい傾向があります。逆に、紙の読み取りや文章の要約など、手順が決めきれない作業が中心なら、AI側の道具から検討することになります。実際には両方を組み合わせる場面が多いため、まず「その作業の手順を紙に書けるか」で切り分けてみてください。

Qパソコンに詳しい社員がいなくても使えますか?
A

操作を記録して手順を組むタイプのツールが増えており、プログラミングの知識がなくても最初の1体はつくれることが多いです。ただし、システムの画面が変わったときの手直しや、例外処理の追加には慣れが要ります。誰か1人は仕組みを理解している状態にしておくか、導入時に外部の支援を受けて型をつくるのが現実的です。

Q費用はどのくらいかかりますか?
A

ツールの種類や動かす台数、対象業務の数によって幅が大きく、一概には言えません。1台のパソコンの中だけで動かす簡易なものから、サーバーで集中管理する本格的なものまで段階があります。見積を取る際は、ライセンス費だけでなく、手順を組む初期の作業と、その後の保守にかかる手間まで含めて比べてください。

Q現場の職人の仕事も自動化できますか?
A

RPAが扱えるのはパソコン上の操作なので、現場作業そのものは対象外です。ただし、現場から上がってきた日報や写真、出面をその後に処理する事務作業は対象になります。現場の負担を減らしたい場合は、入力する項目自体を減らす、スマホから直接入力できるようにするといった見直しと合わせて考えることになります。

Q導入したのに使われなくなる、という話をよく聞きます。
A

原因としてよく挙がるのは、対象業務を選ぶ前に業務の可視化ができていないこと、現場の意見を聞かずに導入を決めてしまうこと、動かし始めた時点で終わりにして効果を測っていないことです。始める前に対象と合格ラインを決め、動かした後も件数とエラーを見続ける体制があるかどうかで、その後が変わります。

関連用語

OCR

紙の書類を文字データに変える技術。RPAと組み合わせて請求書処理などに使われる。

詳しく見る

AIエージェント

手順を決めなくても、目的を伝えれば自分で段取りして動くタイプの自動化。

詳しく見る

PoC(概念実証)

本格導入の前に小さく試して判断する工程。合格ラインの決め方と進め方。

詳しく見る

どの作業から自動化すれば効果が出るのか、現状の棚卸しからご相談いただけます。

出典・参考

総務省 情報流通行政局地域通信振興課・自治行政局行政経営支援室「自治体におけるAI・RPA活用促進」(令和7年6月30日版)

https://www.soumu.go.jp/main_content/001018078.pdf

出典を開く

総務省 報道資料「令和6年度『地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査』等の調査結果の公表」

https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu06_02000454.html

出典を開く

MM総研「RPA国内利用動向調査 2022(2022年9月時点)」

https://www.m2ri.jp/report/market/detail.html?id=70

出典を開く

MM総研 プレスリリース「RPA導入企業が活用を本格化、AI-OCR導入も約2割」(2021年2月14日)

https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=474

出典を開く

日立ソリューションズ 導入事例「北野建設株式会社様 RPA業務支援BPOサービス」

https://www.hitachi-solutions.co.jp/rpa/case08/

出典を開く

PwC Japan有限責任監査法人/UiPath「RPAガバナンス構築のためのガイドラインおよびRPAガバナンスハンドブック」

https://www.pwc.com/jp/ja/services/assurance/process-system-organization-data-management/risk-governance-advisory/rpa/rpa-guideline.html

出典を開く

ユーザックシステム「RPA運用で野良ロボットを生み出さないためのポイントを詳しく解説」

https://www.usknet.com/rpa/rpa_success/11014/

出典を開く