生コン車が現場に着いて、まず円錐形の筒に生コンを詰め、引き抜いて何センチ下がったかを測る——受入検査でおなじみのあの作業で読んでいる数字がスランプです。納入伝票に並ぶ「24-18-20N」の真ん中の18が、それにあたります。数字が大きいほどやわらかく、型枠に流し込みやすい。ただし「やわらかい=良いコンクリート」ではないところが、この指標のややこしいところです。この記事では、スランプとは何かという定義から、スランプ試験の手順、JIS A 5308が定める許容差、現場での加水がなぜ禁物なのか、そして国土交通省が進めるスランプ値の扱いの見直しとAI画像解析による代替の動きまで、中小の建設会社の現場担当・事務担当に向けて整理します。
スランプとは
スランプとは、まだ固まらないコンクリート(フレッシュコンクリート)のやわらかさ、専門的に言えばコンシステンシー(変形や流動に対する抵抗の程度)を表す指標です。スランプコーンと呼ばれる金属製の円錐形の筒に生コンを詰め、静かに引き上げたときに、山の中央部が元の高さからどれだけ下がったかをセンチメートル単位で測ります。試験方法はJIS A 1101「コンクリートのスランプ試験方法」に定められており、0.5cm単位で読み取ります。
筒の高さは30cmですから、引き上げてもまったく形が崩れなければスランプは0cm、完全に潰れれば30cmに近づきます。実際の現場で扱うのは、おおむね8cmから21cmの範囲です。まずは数字が大きいほどやわらかく、流動性が高いと覚えておけば、現場での会話にはついていけます。
やわらかいコンクリートのほうが型枠の隅まで回りやすく、施工はしやすくなります。ただし強度を支配しているのは水セメント比であって、スランプそのものではありません。混和剤の力で流動性を確保したコンクリートと、水を足してやわらかくしたコンクリートは、同じスランプ値でも中身がまったく別物です。スランプは施工のしやすさを測る指標であって、強度の指標ではない、と切り分けて理解しておく必要があります。
現場に納入される生コンは、呼び強度・スランプ・粗骨材の最大寸法・セメントの種類の組み合わせで発注します。伝票の「24-18-20N」であれば、スランプの指定値は18cmという意味です。伝票を確認してから打ち込み・締固め・養生へ進む一連の流れは、コンクリート打設の記事で扱っています。スランプは、その打設当日にいちばん最初に確かめる数字にあたります。
スランプ試験のやり方
スランプ試験は、生コン車が現場に着いてから打ち込みを始めるまでのわずかな時間に行います。手順そのものは単純ですが、詰め方や突き方が雑だと値がぶれるため、誰がやっても同じ結果になるよう細かく決められています。試験に慣れていない人が立ち会うときは、次の流れを頭に入れておくと動きが読めます。
- 1
試料を採取する
アジテータ車から排出される生コンのうち、最初と最後を避けた中間部分から試料を取ります。あわせて納入伝票で、工場を出てからの経過時間と配合の指定値を確認しておきます。
- 2
スランプコーンを据える
上端の内径10cm、下端の内径20cm、高さ30cmの金属製の筒を、水平で滑らかな平板の上に置きます。詰めている間に動かないよう、足掛けをしっかり踏んで固定します。
- 3
三層に分けて詰める
ほぼ等しい量になるよう三層に分けて詰め、一層ごとに突き棒で25回ずつ突きます。突き方が層ごとにばらつくと、そのまま値のばらつきになります。
- 4
上面をならす
最上層を突き終えたら、コーンの上端に合わせて余分をかき取り、表面を平らにします。まわりにこぼれた生コンも取り除いておきます。
- 5
コーンを引き上げる
コンクリートが動かないよう、ねじらずに鉛直方向へ静かに引き上げます。斜めに抜くと山が偏り、正しい値が読めません。ここが試験でいちばん差が出る動作です。
- 6
下がりを測る
引き上げたコーンを傍らに置き、元の高さから山の中央部が下がった量を検尺で測って、0.5cm単位で記録します。この数値がその車のスランプ値になります。
- 試料の採取から測定終了までは手早く進める。時間が経つほどスランプは下がっていく
- 平板は水平で、水を吸わない滑らかなものを使う
- 山が偏って崩れてしまった場合は、別の試料で試験をやり直す
- スランプと同時に、空気量・塩化物量・コンクリート温度を測るのが受入検査の基本の組み合わせ
- 高流動コンクリートなどスランプフローで管理するものは、下がりではなく広がった直径を測る
スランプ値の目安と許容差
どのスランプを指定するかは、部材の形と配筋の密度、打込みの方法で決まります。鉄筋が密で断面が小さい部材ほど、やわらかいコンクリートでないと隅まで回りません。土木では一般的な鉄筋コンクリート構造物で12cmを標準としてきた一方、建築では15cm、18cm、21cmといった値がよく使われます(出典: アルキテック)。同じ「コンクリート工事」でも土木と建築で相場が違う点は、押さえておくと混乱せずに済みます。
指定した値ちょうどが出ることはまずないため、荷卸し地点での許容差がJIS A 5308(レディーミクストコンクリート)に定められています。よく使う範囲の値を並べると次のとおりです。
- スランプ2.5cm:許容差は±1cm
- スランプ5cm以上8cm未満:許容差は±1.5cm
- スランプ8cm以上18cm以下:許容差は±2.5cm
- スランプ21cm:許容差は±1.5cm(呼び強度27以上で高性能AE減水剤を使用する場合は±2cm)
指定スランプが8cm以上18cm以下のときに、荷卸し地点で認められるずれの幅
±2.5cm
JIS A 5308 レディーミクストコンクリート
現場でよく使う18cm指定なら、15.5cmから20.5cmまでが合格の範囲ということになります。逆に言えば、この幅を外れた生コンは受け取らずに返す判断が必要です。一台返せばその日の段取りは乱れますが、規格を外れたまま打ち込んだ結果は躯体に残り続けます。判断に迷わないよう、受入検査の項目と基準は建材試験センターなどの解説であらかじめ確認し、工事監理者と共有しておくのが確実です。
スランプが合わないときに現場で起きること
スランプが指定値から外れる原因は、配合そのもののほかに、運搬にかかった時間、外気温、アジテータ車の中での状態などさまざまです。よくあるのが、工場では規定どおりだったのに現場に着く頃には固くなっている、いわゆるスランプロスです。気温が高い時期ほど、この低下は速く進みます。
固いからといって水を足せば、その場のスランプは戻ります。しかし水セメント比が上がった分だけ強度は確実に落ち、ひび割れや耐久性の面でも不利になります。しかも打ち上がったあとの見た目では判別できません。硬くて打てない生コンは、水を足すのではなく返品するか、次の車の配合や出荷間隔を工場と相談するのが筋道です。
- 固すぎる:型枠の隅や鉄筋の裏まで回らず、豆板(ジャンカ)や充填不足になりやすい
- やわらかすぎる:セメントペーストと骨材が分離し、上面に水が浮く。沈下ひび割れや表面の脆弱化につながる
- スランプロス:練混ぜからの時間経過と高温で流動性が落ちる。夏場は運搬時間の管理がそのまま品質管理になる
- 車ごとのばらつき:同じ部材の中で締固めの効きが変わり、仕上がりが不均一になる
スランプが小さい生コンほど、締固めにかかる負担は大きくなります。鉄筋が密になりやすい梁の交差部や柱脚では、配筋の状態とスランプの指定はセットで考える必要があります。設計上は成立する配合でも、その現場の配筋密度に対して固すぎれば、充填不足という形で結果が出ます。図面を見た段階で「この部材にこのスランプで入るか」を一度考えておくと、当日の慌ただしさが減ります。
国が進めるスランプの扱いの見直し
近年、このスランプという指標そのものの扱いが変わりつつあります。日経クロステックは2025年3月5日の記事で、国土交通省がi-Construction 2.0の一環として、コンクリートの品質管理からスランプを廃止する方針を示したと報じています。理由は品質上の問題ではなく、試験に多くの人手を要する点が生産性向上の妨げになっている、というものです。スランプ試験には施工者を含む複数の関係者が立ち会うのが通例で、その省人化が課題とされてきました(出典: 日経クロステック)。
直轄土木工事で、特記仕様書へのスランプ値の明記を廃止し参考値化する運用の適用開始(4月1日以降に公告する工事から)
2026年4月
建通新聞
建通新聞は2026年3月6日、国土交通省が直轄工事において特記仕様書での「スランプ値の明記」を廃止し、積算上のスランプ値は参考値として示したうえで、契約後に受発注者が施工条件を踏まえて協議し、必要に応じてスランプ値を指定する運用に切り替えると報じました。4月1日以降に公告する工事から適用され、約9年ぶりの見直しにあたるとされています(出典: 建通新聞)。発注者が一律に決めていた値を、現場の条件に合わせて決め直せるようにする方向だと読めます。
受入検査そのものを置き換える検討も並行しています。週刊ブロック通信によれば、国土交通省は2023年度から全国の直轄工事でスランプの画像解析の試行を実施しており、JIS認定工場で製造された製品であることを前提に現場での品質確認を省略し、ICTを活用した全数予測へ移していく構図が示されています(出典: 週刊ブロック通信)。検討の経過は、国土交通省のコンクリート生産性向上検討協議会の資料として公開されています。
一連の動きは国土交通省の直轄土木工事が対象です。建築分野では日本建築学会のJASS 5に基づく受入検査が続いており、明日からスランプ試験がなくなるわけではありません。建築は部材断面が小さく配筋が密なため流動性のブレが効きやすいこと、打放しなど仕上がりがそのまま評価される部位があることも指摘されています(出典: アルキテック)。土木の話をそのまま建築の現場に持ち込まないよう、区別して受け止めるのが安全です。
AIでスランプを測る技術はどこまで来たか
ミキサ内の練り混ぜ画像からAIがスランプを判定した際の的中率(JIS A 5308の許容差±2.5cm以内で判定)
99%超
@Press(會澤高圧コンクリート)
會澤高圧コンクリートは、生コンの製造工程におけるミキサ内の練り混ぜ画像、練り混ぜ後に一時貯留するホッパ内の画像、そして練り混ぜ中のミキサの音響データを深層学習にかけてスランプを判定するシステム「P/S neural」を開発しました。同社の発表によれば、画像データを用いた場合の判定率はJIS A 5308の許容差±2.5cmの基準で99%以上、音響データでは同じ基準で94%以上、独自に設けた±1.0cmという厳しい基準でも80%を超えたとされています。2021年3月末には、鵡川工場のコンクリート二次製品用バッチャープラントに実装されました(出典: @Press)。
工場側での予測にも実用例があります。パシフィックシステムの「PreSLump AI」は、AIの画像認識技術でミキサ内の練混ぜ画像からスランプ値を予測し、全バッチの予測値をリアルタイムに確認できるようにするシステムです。実測したスランプ値をクラウドに蓄積してAIモデルを定期的に更新し、精度を高めていく設計になっています(出典: パシフィックシステム)。抜き取りだった検査が、全数の連続監視に変わるという点が従来との大きな違いです。
ここで起きているのは、「現場で測る」から「工場で予測して外れだけを見る」への転換です。人がコーンを引き抜いて確かめていた仕事が、ミキサの中で連続的に押さえられるようになれば、現場に人を張り付ける理由は薄れていきます。画像認識AIが建設の品質管理に入り込んできた、わかりやすい例と言えます。
スランプまわりの記録を中小の現場で軽くする
とはいえ、AI画像解析の仕組みをすぐ自社に導入できる中小の会社は多くありません。現実的に効くのは、スランプ試験そのものではなく、その周辺に残っている手作業のほうです。測った値を野帳に書き、事務所でエクセルに打ち直し、写真を仕分けて報告書に貼る——この流れは、いま手元にある道具でもかなり短くできます。
- 受入検査記録の転記:野帳やホワイトボードの写真から、スランプ・空気量・温度・塩化物量を読み取って表に流し込む
- 試験写真の仕分け:黒板の文字を読み取り、日付・工区・部位ごとに自動で振り分ける
- 伝票の突合:納入伝票の呼び強度とスランプ指定値が、設計図書の値と一致しているかを機械的に照合する
- 品質記録の集計:車ごとのスランプ値を並べ、外気温や運搬時間との関係をあとから振り返れる形で残す
- 報告書の下書き:定型の様式に、その日の測定値と所見の案を先に埋めておく
どれも派手さはありませんが、打設のたびに必ず発生する作業なので、年間で見れば積み上がります。自社ではどこから手をつけるのが早いか、その見立ての立て方はAI番頭のサービスでも整理しています。
値の転記や集計は機械に任せて構いません。ただし「この生コンを受け入れるか、返すか」という判断は、責任の所在がはっきりする形で人が下すべきものです。AIが出すのは判断材料までで、最終的な合否は現場の技術者が決める。この線を最初に引いておくと、道具を入れたあとの運用が揺れません。
よくある質問
Qスランプが大きいコンクリートのほうが良いのですか+
施工はしやすくなりますが、品質が良いという意味ではありません。強度を支配しているのは水セメント比であって、スランプは強度の指標ではないためです。混和剤で流動性を高めたコンクリートは大きいスランプでも問題ありませんが、水を足してやわらかくしたものは強度が落ちます。部材の形と配筋密度に対して、必要な流動性を過不足なく指定するのが本来の考え方になります。
Qスランプが許容差を外れたらどうすればよいですか+
規定に沿って再試験を行える場合があり、それで基準内に収まればそのまま受け入れます。再試験でも外れる場合は、その生コンは受け取らずに返品するのが原則です。現場で水を足して調整するのは強度低下につながるため行いません。同じ日に何台も外れるようであれば、配合や運搬時間の側に原因があるので、工場と条件を詰め直す必要があります。どこまでを再試験の対象とし、どの時点で返品するかの基準は、工事監理者と事前に共有しておくと当日迷わずに済みます。
Qスランプ試験は廃止されると聞きましたが、もう測らなくてよいのですか+
現時点で対象になっているのは国土交通省の直轄土木工事で、2026年4月1日以降に公告される工事から、特記仕様書へのスランプ値の明記が廃止され参考値として扱われるようになりました(出典: 建通新聞)。試験そのものが全面的に不要になったわけではなく、AI画像解析などの代替技術が入った現場から段階的に省力化していく方向です。建築分野では日本建築学会のJASS 5に基づく受入検査が続いています。自社の案件がどの扱いになるかは、必ず発注者や工事監理者に確認してください。
Qスランプとスランプフローは何が違うのですか+
スランプはコーンを引き上げたときの下がり量、スランプフローは広がった生コンの直径を測ったものです。高流動コンクリートのように流動性が高いものは、下がり量が頭打ちになって差が読めなくなるため、広がりで管理します。管理値の単位も許容差の考え方も別なので、その現場の指定がどちらなのかを設計図書と納入伝票で確認しておく必要があります。
Q夏場にスランプが落ちやすいのはなぜですか+
気温が高いとセメントの水和反応が早く進み、練混ぜからの時間経過にともなう流動性の低下が速くなるためです。工場の出荷時には規定内でも、渋滞などで運搬に時間がかかれば、荷卸し地点では下がっていることがあります。夏の打設で運搬時間の管理や打設開始時刻の前倒しが重視されるのは、この性質があるからです。配合の側でも、遅延形の混和剤を使うなどの対応がとられます。
Qスランプ試験の値は誰が記録するのですか+
一般には施工者が試験を行い、その結果を品質記録として残します。試験に必要な資格が法令で一律に定められているわけではありませんが、実際にはコンクリート技士などの有資格者や、社内で試験の手順を習熟した担当者が実施している現場が多いのが実情です。誰が立ち会い、誰が記録を保管するかは、工事ごとの施工計画書や品質管理計画で先に決めておくのが確実です。
関連用語
コンクリート打設(だせつ)
受入検査から打ち込み・締固め・養生まで、打設当日の流れと押さえるべき時間の限度を解説しています。
詳しく見る →配筋(はいきん)
必要なスランプを左右する鉄筋の配置。かぶり厚さや継手など、配筋検査で見られるポイントをまとめています。
詳しく見る →i-Construction
スランプの扱いの見直しの背景にある、国土交通省の生産性向上の取り組み。全体像を整理しています。
詳しく見る →受入検査の記録や写真整理にどれだけ時間を取られているかは、会社ごとに事情が違います。自社の場合はどこから手をつけるのが早いかを一緒に整理したい方は、お問い合わせからご相談ください。
出典・参考
全国生コンクリート工業組合連合会「JIS A 5308改正説明会 質問一覧」
https://www.zennama.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/04/A5308_20190422.pdf
出典を開く →建材試験センター「レディーミクストコンクリートの受入れ時の検査」
https://www.bmtc.jp/concrete_inspection/fresh_concrete.html
出典を開く →日経クロステック「『スランプ』廃止へ、国土交通省がコンクリート施工の生産性向上」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00107/00239/
出典を開く →建通新聞「スランプ値、仕様書明記を廃止 契約後に受発注者で協議・確認」
https://digital.kentsu.co.jp/articles/artcl_rglr/01KK0N8XQRXNJS4QWC2W2X4E0H
出典を開く →週刊ブロック通信「スランプ廃止検討、AI導入し省力化」
https://block-tsushin.co.jp/concrete_news/government_office/2025/03/5887
出典を開く →国土交通省 第15回コンクリート生産性向上検討協議会 資料3-2「画像等による生コンの品質管理に関する試行結果報告」
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001984861.pdf
出典を開く →@Press「會澤高圧コンクリート、人工知能(AI)活用の生コン品質判定システムを開発 判定率は99%超」
https://www.atpress.ne.jp/news/243808
出典を開く →パシフィックシステム「AIスランプ予測システム PreSLump AI」
https://www.pacific-systems.co.jp/solution/preslumpai/
出典を開く →アルキテック「【建築実務者向け】コンクリート「スランプ試験廃止」のウワサ。土木と建築で違う品質管理のゆくえ」
https://arkhitek.co.jp/slump-test-abolished/11839/
出典を開く →