資材を多めに頼んで現場の隅に積み上がったまま。逆に足りなくなって、翌日の段取りを組み替えた。職人の手配を早めに押さえたら現場が動かず、待ってもらうことになった。どれも「先の見通しが立たない」ことから起きる無駄です。この見通しを、勘と経験だけでなくデータの裏づけつきで立てようという道具が需要予測AIです。この記事では、需要予測AIとは何かという意味から、過去の数字をどう将来の見積もりに変えるのかという仕組み、建設業ならではの使いどころ、そして導入で足をすくわれやすい点まで、公表されている事例と公的な統計をもとに整理します。

需要予測AIとは

需要予測AIとは、過去の実績データやそれに影響する要因を機械学習に読み込ませ、これから先にどれだけ必要になるかを数量で出す仕組みです。小売なら明日の弁当の売れ数、物流なら来月の荷量、建設なら今月の資材の使用量や、ある工種にどれだけ人手が要るかにあたります。

ここでいう「需要」は、お客さまからの注文だけを指すわけではありません。自社が使う側になるもの、つまり資材・重機・人工(にんく)といった「これだけ要る」という量も、同じ考え方で予測の対象になります。建設業で需要予測AIが話題にのぼるとき、多くは後者、つまり調達と手配の話です。

従来この仕事は、担当者が過去の伝票をエクセルにまとめ、前年同月と見比べ、そこに「今年は雨が多い」「あの現場は工程が押している」といった肌感覚を足して決めていました。需要予測AIはこの手順を置き換えるものではなく、担当者が見比べていた材料を桁違いに増やし、規則性の部分を機械に任せるものだと考えると近いです。

予測は「当てる」ためではなく「決める」ためにある

需要予測AIの価値は、ぴたりと的中させることではありません。発注量や手配人数を決めるときに、根拠のある出発点が毎回そろっていることにあります。担当者が変わっても判断のばらつきが小さくなり、外れたときに「なぜ外れたか」を振り返れる形で数字が残ります。

AIを活用している企業のうち、需要予測などの領域で使っていると回答した割合(2024年度調査)

55.2%

総務省 令和7年版 情報通信白書「企業におけるAI利用の現状」

総務省の令和7年版情報通信白書によれば、AIの活用領域として「需要予測など」を挙げた企業は55.2%と、企画立案・資料作成の47.3%を上回っています。生成AIによる文章作成ばかりが注目されがちですが、企業が実際にAIを使っている場面としては、数字を読んで先を見積もる用途が大きな位置を占めていることがうかがえます。

需要予測AIの仕組み

需要予測AIは魔法の水晶玉ではなく、「過去に似た条件のとき、実際はどうだったか」を大量に照合しているだけです。おおまかには次の流れで動きます。

  1. 1

    実績データを集める

    何を、いつ、どれだけ使ったか・仕入れたかの記録を、日次や週次といった一定の単位でそろえます。多くの製品が求めるのは最低でも二〜三年分の連続した実績です。ここが穴だらけだと、この先の工程がすべて崩れます。

  2. 2

    影響しそうな要因を足す

    実績だけでは説明できない上下を埋めるため、天候、気温、曜日や祝日、決算期、着工した現場の数や規模といった外部の要因を一緒に読ませます。この要因を説明変数と呼びます。

  3. 3

    過去で学習させる

    たとえば一昨年までのデータで規則性を覚えさせ、去年のデータで答え合わせをします。実際の数字を隠して予測させ、どれだけずれたかを測る手順です。

  4. 4

    誤差を測って調整する

    予測値と実績値のずれを誤差率などの指標で確認し、要因の選び方やモデルの設定を変えて精度を詰めます。何%外れたら業務上まずいのかを先に決めておくことが肝心です。

  5. 5

    運用しながら学び直す

    本番で使いはじめたあとも、新しい実績を足して定期的に学習をやり直します。取引先や現場の顔ぶれが変われば、過去の規則性はそのまま通用しなくなるためです。

予測の方法そのものは一種類ではありません。前年同月比や移動平均のような昔からある時系列分析、複数の要因の効き方を同時に扱う機械学習、大量のデータから複雑な関係をつかむ深層学習まで幅があります。データが少ないうちは単純な手法のほうが当たることも珍しくなく、高度な手法ほど良いとは限りません

AI侍AI侍
予測とは占いにあらず。過去の帳面を大量に読み比べておるだけでござる。ゆえに帳面が薄ければ、いかなる名人も当てられぬのでござるよ。

建設業での使い方

建設は一品受注の世界なので、小売のように毎日同じ商品が売れるわけではありません。それでも、社内で繰り返し起きている数字を探すと、予測の対象になるものは意外に見つかります。

  • 資材・副資材の使用量と発注量。ビス、養生材、消耗品など、現場をまたいで恒常的に出ていくものは規則性をつかみやすい対象です。
  • 職人・作業員の手配数。工程表に載った作業量から、週ごとに必要な人工を見積もり、応援を頼むかどうかの判断材料にします。
  • 重機・仮設材のレンタル計画。返却と搬入のタイミングを見通せれば、遊んでいる期間の費用を減らせます。
  • 資材価格そのものの先読み。鉄筋や鋼材のように相場が動くものは、価格の方向を見て発注時期を早めるかどうかを考えます。
  • 問い合わせ・受注の見込み。リフォームや設備更新のように季節性がある仕事では、繁忙期に向けた人員計画に使えます。
  • 在庫の適正量。倉庫や資材センターを持つ会社であれば、置き場を圧迫している品目の見直しにつながります。

とくに近年、建設業で切実なのが価格の先読みです。国土交通省が公表している建設工事費デフレーターは、工事費が過去の水準からどれだけ動いたかを示す指標ですが、2021年ごろを境に上昇が続いてきました。見積もりを出してから実際に発注するまでの数か月で仕入れ値が変わってしまえば、その差はそのまま利益から削られます。

公表されている導入事例

建設・住宅関連でも、需要予測AIを実際に動かしている例が公表されています。数字の大きさに驚くよりも、何を課題にして何を予測させたのかという設計のほうに目を向けると参考になります。

LIXILがAI需要予測の試験運用の対象とした建材製品の規模(230万を超えるSKU)

約120万機種

LIXIL ニュースリリース(2023年4月27日)

LIXILは2023年4月のニュースリリースで、サッシやドア、エクステリアなどを扱う事業を対象に、PwCコンサルティングの需要予測ソリューション「Multidimensional Demand Forecasting(MDF)」を導入し、試験運用を始めたと発表しています。品番が膨大で人手による予測が難しくなっていたこと、調達リスクやコンテナ不足といった供給側の混乱があったことが背景として挙げられ、欠品、過剰在庫、リードタイムの延長、横持ち輸送コスト、廃棄コストといった複数の課題を同時に狙っている点が特徴です。

資材価格の側からの取り組みもあります。xenodata lab.が2023年11月に公表した事例によれば、西松建設のDX戦略室は、物価変動の影響を受ける建設コストを適正に見込むため、経済ニュースや統計を解析する予測サービスを導入しました。同社はもともと物価データを整理して回帰分析を試みていたものの精度を高める難しさに直面していたとされ、導入の決め手として「予測の影響要因となるニュースや統計が確認できる点」が挙げられています。見積金額と実際の購入金額の乖離が大きなリスクであるとの認識のもと、建築費指数の予測を見積もりに反映させたり、異形棒鋼のような個別品目の価格動向を見て早期発注を判断したりする使い方が紹介されています。

根拠が見える予測でなければ現場は動かない

西松建設の事例で語られているのは「予測の根拠や裏付けが重要」という点です。予測値だけを渡されても、発注のはんこを押す人は動けません。なぜその数字になったのかを一緒に示せる仕組みかどうかは、製品を選ぶときの実務的な判断軸になります。

こうした大規模な事例は中小の会社にはそのまま当てはまりませんが、予測させる範囲を絞れば規模は関係なく試せます。経済産業省が公開している「AI導入ガイドブック 需要予測(小売業、卸売業)」も、中小企業が自らAIを導入する場合のノウハウを、構想から運用までの段階に分けて整理した資料です。業種は異なりますが、必要なデータの考え方や費用と効果の見積もり方は建設業でも参考になります。

メリットと注意点

得られるもの

発注や手配の判断が担当者の勘だけに依存しなくなり、経験の浅い人でも一定の水準で判断できるようになります。エクセルの集計や前年比較に費やしていた時間が減り、外れたときの原因を数字で振り返れるようになる点も見過ごせません。置き場を圧迫していた在庫や、余らせていたレンタル期間のような、これまで金額として見えていなかった無駄が可視化されます。

つまずきやすいところ

最大の壁はデータです。紙の伝票や担当者ごとのエクセルに分かれている状態では、まず整えるところに時間がかかります。また、はじめての工法や初めて組む協力会社のように過去に例のない事象は、原理的に予測できません。災害や急な法改正のような外的要因も同じです。予測を鵜呑みにして発注する運用にせず、最終判断は人が持つ形を崩さないでください。

検討段階でのつまずき方には、業種を問わず似た傾向があります。AI CROSSが2026年7月に公表した製造業の従事者412名への調査では、AI需要予測に対して「導入・運用には外部の専門家やデータサイエンティストが必要」と考える人が60.7%、「期待する精度が出るか半信半疑」が58.7%、「初期費用は1,000万円以上かかる」が51.5%と、いずれも過半数にのぼりました。一方で、現実的な条件を示したうえで聞くと「興味あり以上」と答えた人が82.8%に達しています。関心がないのではなく、費用と難易度の見積もりが実態より重く見積もられている、という構図が読み取れます。

AI需要予測には外部の専門家やデータサイエンティストが必要だと考える人の割合(製造業従事者412名への調査)

60.7%

AI CROSS プレスリリース(2026年7月22日)

導入の進め方

いきなり全社の資材を対象にすると、データ整備だけで一年が過ぎます。次のように、狭く始めて広げるのが現実的です。

  1. 1

    外れると痛い品目を一つ選ぶ

    欠品したら現場が止まる、あるいは余らせると費用がかさむ品目を一つだけ選びます。金額が大きいものより、頻度が高く判断回数の多いものが向いています。

  2. 2

    手元のデータの状態を確かめる

    その品目について、何年分の実績が、どの粒度でそろっているかを確認します。会計システムや購買システムから抜き出せるかどうかもここで見ます。

  3. 3

    今のやり方の精度を測る

    比較の基準がないと導入効果を語れません。現在の担当者の見立てが実績からどれだけずれているかを、数か月ぶん先に記録しておきます。

  4. 4

    小さく試して比べる

    予測結果をすぐ発注に使わず、しばらくは担当者の判断と並走させます。どちらがどれだけ当たったかを突き合わせ、任せてよい範囲を見極めます。

  5. 5

    運用の担当と見直しの周期を決める

    誰が予測を確認し、いつ学習をやり直すのかを決めて業務に組み込みます。ここを決めずに始めた仕組みは、担当者の異動とともに使われなくなります。

小さく試して効果を測る進め方についてはPoC(概念実証)の考え方が参考になります。自社のどの数字から手をつけるべきか判断がつかない場合は、AI番頭のサービス内容をご覧いただくか、現場の状況をお聞かせください。

よくある質問

Qデータはどれくらいあれば始められますか
A

季節による上下を捉えるには、同じ時期を何度か経験している必要があるため、二〜三年分の連続した実績が一つの目安とされます。ただし品目や予測したい期間の長さによって変わります。まずは手元の実績が何年分どの単位でそろっているかを確認し、足りなければ記録の形を整えるところから始めるのが遠回りに見えて確実です。

Qエクセルの前年比較と何が違うのですか
A

前年比較は要因を一つ(前年の実績)しか見ていません。需要予測AIは天候、曜日、着工数、価格といった複数の要因が同時にどう効いているかを扱えます。逆に言えば、扱う要因が実質的に一つしかない品目なら、エクセルで十分ということもあります。すべてをAIに置き換える必要はありません。

Q建設は一品受注ですが、それでも予測できますか
A

工事一件ごとの内容は予測できませんが、社内で繰り返し発生する数字は予測の対象になります。消耗品の使用量、週ごとの必要人工、レンタル機材の稼働、季節性のある問い合わせ件数などです。「工事を当てる」のではなく「工事に伴って必ず動く量を読む」と考えると、対象が見つけやすくなります。

Q予測が外れたらどう扱えばよいですか
A

外れること自体は前提です。大切なのは、どれだけ外れたら業務上困るのかという許容範囲を先に決めておくことと、外れた回の要因を記録しておくことです。特殊な現場が重なった、天候が例年と違ったといった理由が残っていれば、次の学習やモデルの見直しに使えます。

Q中小企業でも費用は見合いますか
A

初期費用が1,000万円以上かかると考える人が過半数という調査結果があるように、実態より高く見積もられている面があります。近年はクラウド型で月額から使える製品も増えており、対象を一品目に絞れば試算はしやすくなります。判断の材料として、現在その品目の欠品や余剰で年間いくら失っているかを先に概算しておくことをおすすめします。

関連用語

異常検知AIとは

正常な状態を学習して「いつもと違う」を見つける技術。将来の量を読む需要予測との考え方の違いがわかります。

詳しく見る

CDE(共通データ環境)とは

予測の土台になるデータを一カ所に集めて共有する仕組み。整備の順番を考えるときに役立ちます。

詳しく見る

積算・数量拾いとは

必要量を出す建設の基本業務。需要予測AIが扱う数字の出どころを理解する助けになります。

詳しく見る

PoC(概念実証)とは

一品目・一現場で小さく試して効果を測る進め方。予測の精度を見極める段階で欠かせません。

詳しく見る

RPAとは

定型作業を自動化する仕組み。予測結果を発注システムへ流し込む工程と組み合わせて使われます。

詳しく見る

建設DXとは

需要予測を含むデータ活用が、業界全体の省人化の流れの中でどこに位置するかを整理しています。

詳しく見る

自社のどの数字なら予測に使えるのか、どこから手をつけるべきかは、扱う品目や記録の残り方によって変わります。判断に迷う場合は、無料の相談窓口から現場の状況をお聞かせください。

出典・参考

総務省 令和7年版 情報通信白書「企業におけるAI利用の現状」

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html

出典を開く

経済産業省「AI導入ガイドブック 需要予測(小売業、卸売業)」(2021年3月)

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/AIguidebook_DemandForecasts_FIX.pdf

出典を開く

LIXIL ニュースリリース「LIXIL、AIを活用した需要予測を導入し、試験運用開始」(2023年4月27日)

https://newsroom.lixil.com/ja/20230427_03

出典を開く

xenodata lab. プレスリリース「西松建設、経済特化生成AI『xenoBrain』で建設業界の物価変動を先読み」(2023年11月8日)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000098.000021200.html

出典を開く

AI CROSS プレスリリース「発注・在庫管理を担うAI需要予測、5つの『印象の壁』が過半数」(2026年7月22日)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000284.000021834.html

出典を開く

国土交通省 報道発表「令和7年度(2025年度)建設投資見通し」(2025年8月29日)

https://www.mlit.go.jp/report/press/joho04_hh_001319.html

出典を開く

国土交通省「建設工事費デフレーター」

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/jouhouka/sosei_jouhouka_tk4_000112.html

出典を開く