設計や計画の話題で「ジェネレーティブデザイン」という言葉を見かけるようになりました。名前だけ聞くと難解ですが、中身は「人が条件を決め、コンピューターが案を出す」という、それほど複雑ではない考え方です。この記事では、ジェネレーティブデザインの意味と仕組み、建築・建設の実務でどこに効くのか、導入するときの注意点までを、専門用語をできるだけ避けて整理します。国内のゼネコンが公表している実例と、公的機関のデータもあわせて紹介します。
ジェネレーティブデザインとは
ジェネレーティブデザインとは、達成したい目的と守るべき制約条件をコンピューターに与えることで、条件を満たす設計案を大量に自動生成させる手法のことです。「ジェネレーティブ(generative)」は「生成する」という意味。設計者が形を描いてから成立するか検証する、という従来の順番をひっくり返し、条件から形を生み出す点が最大の特徴です。
たとえば部材であれば「この荷重に耐えること」「重さは何kg以下」「材料はこれ」「この工法でつくれること」を入力します。建物の計画であれば「敷地の形」「用途と必要な床面積」「法規の制限」「日照や動線の条件」といった具合です。コンピューターはその枠内で数百から数千の案を試し、条件をよく満たすものを並べて返してきます。
ジェネレーティブデザインで人が担うのは「何を良しとするか」を定義する仕事です。条件があいまいなまま回すと、条件どおりだが使えない案が大量に出てきます。良い条件を書ける人ほど、良い案が返ってくる仕組みだと考えてください。
生成AI・トポロジー最適化との違い
混同されやすいのが生成AIとの関係です。生成AIは文章や画像といった「見た目・表現」をつくることに強く、ジェネレーティブデザインは「条件を満たす解」を探すことが目的です。近年は両者が組み合わさり、案の見た目を生成AIがつくり、成立性を計算側が検証するという使われ方も増えています。
もう一つよく比較されるのがトポロジー最適化です。トポロジー最適化は、すでにある形から余分な材料を削っていく引き算の考え方で、答えは基本的に一つ。対してジェネレーティブデザインは、元の形がなくても条件から複数案を組み立てる足し算の考え方だと説明されています(出典: 株式会社キャパ「ジェネレーティブデザインとトポロジー最適化の違いとは」)。既存部品の改良ならトポロジー最適化、構想段階の検討ならジェネレーティブデザインが向く、という整理がよく使われます。
- 生成AI:条件から文章・画像・イメージをつくる。成立性の検証は別途必要
- トポロジー最適化:既存形状から材料を減らし、一つの最適形を求める
- ジェネレーティブデザイン:条件から複数案を生成し、比較して選ばせる
- 共通する前提:どれも「入力した条件」より良い答えは出てこない
案が生まれるまでの流れ
難しい理屈は抜きにすると、ジェネレーティブデザインは次の流れを繰り返しています。試作をつくって評価し、良いものを残して次の試作に活かす——ものづくりの現場で昔からやってきたことを、計算機の速さでやっていると考えると分かりやすくなります。
- 1
条件を決める
守るべき制約(荷重、寸法、法規、予算、工法)と、良し悪しを測るものさし(軽さ、コスト、日照、移動距離など)を数値で定義します。ここが設計者の腕の見せどころです。
- 2
案を大量に生成する
コンピューターが条件の組み合わせを変えながら、成立する案を次々につくります。人手なら数案が限界のところを、数百から数千規模で試せます。
- 3
評価して絞り込む
生成した案を、決めておいたものさしで採点します。良い案の特徴を引き継いで次の案をつくる、という改良を繰り返して精度を上げていきます。
- 4
人が選び、詰める
上位に残った案を設計者が見比べ、施工性や意匠、コストの現実に合わせて手を入れます。最終的に採用する案を決めるのは、あくまで人の判断です。
最初の『条件を決める』段階では、敷地や法規、部材の情報がデータとして揃っていることが前提になります。だからこそBIM/CIMのように、建物の情報を3次元データとして持つ仕組みと相性が良く、実務ではセットで語られることが多くなっています。
建築・建設での使いどころ
建設分野では、答えが一つに決まらず、条件の組み合わせで良し悪しが変わる場面に向いています。具体的には次のような検討です。
- ボリューム検討:敷地と法規、必要床面積から、建てられる建物の形と配置の候補を一気に出す
- 外観・ファサード:開口の割付やパターンの案を複数生成し、施主との合意形成を早める
- 構造部材:荷重条件を満たしつつ、鋼材量やコストを抑える断面・配置の組み合わせを探す
- 設備ルート:配管・ダクトの経路案を出し、干渉や施工手間の少ないものを比較する
- 仮設・施工計画:資材置場や揚重機の配置、動線の候補を出して手戻りを減らす
- 駐車場・区画割り:台数と通路幅の条件から、効率の良い割付案を短時間で比較する
共通しているのは「条件は書き出せるが、組み合わせが多すぎて人手では試しきれない」検討だという点です。逆に、条件が言葉にできない仕事や、前例をなぞれば済む仕事には向きません。
実際の事例と数字
考え方の説明だけでは実感が湧きにくいので、公表されている事例をいくつか見ていきます。建築より先に、製造業で成果が数字として出ているのが実情です。
自動車のシートブラケットをジェネレーティブデザインで再設計した結果(従来品との比較)
40%軽く・20%強く
Autodesk News(2018年5月3日)
ゼネラルモーターズとオートデスクの共同事例では、8つの部品を溶接してつくっていたシートベルト固定用のブラケットについて、設計者が設定した条件をもとにソフトが150以上の案を生成。採用された案は1つの部品に統合され、従来品より40%軽く、20%強くなったと公表されています(出典: Autodesk News)。人が思いつきにくい骨のような形状に行き着いた点が、この手法の性格をよく表しています。
建築分野でも、設計初期の案出しを自動化する取り組みが進んでいます。大林組は、建物形状のスケッチや3Dモデルのアウトラインからファサードデザイン案を瞬時に複数生成し、設計プラットフォーム上で3Dモデル化するAI技術「AiCorb」を開発したと公表しました。従来は設計者がスケッチやCADで案を用意するのに時間と手間がかかっていたところを短縮し、設計初期の迅速な合意形成につなげるねらいだとしています(出典: 大林組 ニュースリリース、2022年3月22日)。
竹中工務店は、敷地情報やインフラ条件、各室の仕様、施主の要望をポータルに入力すると、建築・構造・設備のアプリケーションが連動し、複数の設計提案や色分け図、ZEB検討結果、騒音シミュレーション、構造計算、設備計算までを短時間で出力する「設計BIMツール」を開発したと発表しています(出典: 竹中工務店 プレスリリース、2024年3月7日)。同社は構造設計の分野でも、過去20年以上蓄積した設計データを学習させたAIシステムを導入し、部材の提案などを支援していると報じられています(出典: ITmedia BUILT)。
一級建築士(所属建築士)のうち60歳以上が占める割合。約10年前と比べて3倍
約4割
国土交通省「建築BIMの意義と取組状況について」(令和5年12月)
こうした自動化が急がれる背景には、設計の担い手そのものが減っていく見通しがあります。国土交通省の資料では、一級建築士(所属建築士)に占める60歳以上の割合が約4割に達し、約10年前と比べて3倍になったと示されています(出典: 国土交通省)。案を出す速さより、限られた人数で検討の幅を落とさないことが、この技術に期待されている本当の役割だと言えます。
メリットと注意点
人手では3案が限界だった検討を数百案まで広げられるため、思い込みで切り捨てていた選択肢に気づけます。また、どの条件でどう採点したかが数値で残るので、施主や社内に対して「なぜこの案なのか」を説明しやすくなります。
コンピューターは入力された条件しか見ていません。施工のしやすさ、職人の手配、メンテナンスのしやすさといった条件を入れ忘れると、図面上は成立しても現場で困る案が上位に来ます。生成された案は必ず施工側の目で確かめてください。
もう一つ、生成AIを組み合わせる使い方では、もっともらしい誤りを返すハルシネーションにも注意が必要です。特に数量や構造の成立性に関わる部分は、必ず計算・検証の裏取りをしてから使ってください。導入コストの面では、ツール費用に加えて条件を組み立てられる人材の確保が課題になりやすく、いきなり全社展開せず小さく試す進め方が現実的です。
中小の会社が試すなら、どこから
自社専用の仕組みを組む必要はありません。まずは「条件が数字で書ける、繰り返し発生する検討」を一つ選び、既存のツールで試すところから始めるのが定石です。
- 1
条件が数字で書ける検討を選ぶ
駐車場の割付、資材置場の配置、標準的な部材の断面選定など、良し悪しを数値で測れるテーマを一つ選びます。意匠の善し悪しのように数値化しにくいものは後回しが無難です。
- 2
過去案件で答え合わせをする
すでに答えが出ている過去の物件で回してみて、ベテランの判断とどれくらい合うかを見ます。ここでズレの理由を洗い出すと、抜けている条件が見つかります。
- 3
使う範囲を決めて定着させる
たたき台づくりまでを任せ、最終判断は人が行うと決めて運用します。効果が出た検討から横に広げ、合わなかったものは無理に続けません。
この「過去案件で答え合わせをする」進め方は、PoC(概念実証)と呼ばれる考え方そのものです。効果が読めない技術ほど、小さく確かめてから広げるほうが結果的に早く進みます。AI番頭では、どの業務なら効果が出そうかの見極めからお手伝いしています。詳しくはサービス内容をご覧いただくか、無料診断・お問い合わせからお気軽にご相談ください。
よくある質問
Qジェネレーティブデザインを使えば、設計者はいらなくなりますか?+
そうはなりません。この手法は「条件を満たす案を並べる」ところまでは得意ですが、条件そのものを決めること、条件に書けない事情をくみ取ること、最終的に責任を持って一案に決めることは人の仕事として残ります。むしろ条件を的確に言語化・数値化できる設計者ほど、良い結果を引き出せる技術です。
Q小さな工務店でも導入できますか?+
用途を絞れば十分に可能です。3D CADの機能として組み込まれているものもあり、専用の大きな仕組みを持たなくても試せます。ただし、条件を数値で書き出す作業と、出てきた案を評価する作業は自社で行う必要があります。まずは繰り返し発生する検討を一つ決めて、無料枠や試用期間で効果を測ってから判断するのが安全です。
QBIMを入れていないと使えませんか?+
部材単位の検討であれば3D CADだけでも始められます。ただし建物全体の計画で使う場合は、敷地・法規・仕様といった情報が3次元データとして揃っているほど精度が上がるため、BIMとの組み合わせが前提になっている製品が多いのが実情です。BIMの整備状況に合わせて、できる範囲から段階的に広げるのが現実的です。
Q出てきた案をそのまま使っても大丈夫ですか?+
生成された案は、あくまで入力した条件の範囲での候補です。構造の成立性や法規への適合、施工のしやすさは、必ず有資格者や施工側の目で確認してください。提出・施工の責任を負うのは会社側であり、誰がどこを検証したかを記録に残しておくと、後から経緯をたどれて安心です。
関連用語
生成AI とは
文章や画像をつくるAIの基本。ジェネレーティブデザインと組み合わせて使われます。
詳しく見る →BIM/CIM とは
建物の情報を3次元データで扱う仕組み。設計案の自動生成を支える土台になります。
詳しく見る →建設DX とは
建設業のデジタル化の全体像。設計から施工までどこが変わるのかを整理しました。
詳しく見る →出典・参考
国土交通省「建築BIMの意義と取組状況について」(令和5年12月)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001716005.pdf
出典を開く →大林組 ニュースリリース「建築設計の初期段階の作業を効率化する『AiCorb®』を開発」(2022年3月22日)
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220301_3.html
出典を開く →竹中工務店 プレスリリース「付加価値の高い提案を早期に実現する『設計BIMツール』を開発」(2024年3月7日)
https://www.takenaka.co.jp/news/2024/03/01/
出典を開く →ITmedia BUILT「竹中工務店が構造設計でAIを全面導入 部材設計など3つの機能を実装」(2023年10月17日)
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2310/17/news160.html
出典を開く →Autodesk News「Lightweighting: How GM and Autodesk are using generative design for vehicles of the future」(2018年5月3日)
https://adsknews.autodesk.com/en/news/gm-autodesk-using-generative-design-vehicles-future/
出典を開く →株式会社キャパ「注目を集めるコンピューターによるデザイン ジェネレーティブデザインとトポロジー最適化の違いとは」
https://www.capa.co.jp/archives/43831
出典を開く →