打合せで決まったことは所長の手帳に、安全書類の様式は事務所のパソコンに、協力会社への連絡はLINEに。会社の中に知識は溜まっているのに、必要なときに限って出てこない。そんな散らかりを一冊にまとめる道具としてよく名前が挙がるのがNotion(ノーション)で、そこに組み込まれたAI機能がNotion AIです。この記事では、Notion AIとは何ができるものなのか、ChatGPTのようなチャットAIとどこが違うのか、料金はいくらかかるのか、建設業の事務所と現場でどう使えるのか、そして導入前に押さえておきたい注意点までを順にご説明します。
Notion AIとは
Notion AIとは、メモ・社内wiki・データベースを一つの場所にまとめられるクラウドサービス「Notion」に組み込まれたAI機能のことです。文章の下書き、要約、翻訳といった書く仕事の手伝いに加えて、自社のワークスペースに溜めた情報を横断して探し、質問に答え、複数ページの更新まで代わりに進めます。Notion公式の製品ページでは、エージェント、エンタープライズサーチ、AIミーティングノート、リサーチモード、ページ内で使うインラインAI、データベースの自動入力が主な機能として挙げられています。
一般的なチャットAIは、聞かれたことに世の中の知識で答えます。Notion AIはそこに加えて、自社のNotionに書かれた手順書や議事録、工事の記録を土台にして答えます。「去年のあの現場で、外構の変更はどういう経緯で決まったのか」といった、社内にしか答えのない問いに向くのが持ち味です。裏を返せば、Notionに何も溜まっていない状態では真価が出ません。道具そのものより、書き溜める習慣のほうが先に要ります。
そのため、Notion AIは「賢い検索窓と書記を、自社の書庫の中に置く」道具だと考えると近いです。溜める場所と探す仕組みが同じ屋根の下にあるので、情報を貯める場所を増やさずにAIを足せるのが利点になります。逆に、資料が共有サーバーや紙のままなら、まずそちらを移すところからで、AIを入れれば散らかりが片づくわけではありません。
エージェントの登場で変わったこと
Notion Labs Japanが2025年9月19日に出した発表資料によると、Notionは「Notion 3.0」として、質問に答えるだけでなく自分で手順を踏んで作業するAIエージェントを加えました。同社の説明では、複数ページの編集やデータベース全体の更新といった、これまで数日かかっていた作業を数分で終えられるとされています。また、Notion内の情報に加えて、SlackやGoogle ドライブなどつないだツール、Web検索の結果もあわせて調べられるとしています。使い方を覚えさせておけば、月次の報告書づくりのような繰り返しの仕事を任せる形に近づいていく、という位置づけです。
Notion AIでできること
- エージェント:指示にもとづいて複数の作業をまとめて進める。ページの作成や更新、定型の報告書づくりなどを任せられる
- エンタープライズサーチ:Notionの中だけでなく、つないだSlackやGoogle ドライブ、GitHubなども横断して探す
- AIミーティングノート:打合せの音声を文字起こしし、要点とやることを整理した議事録に仕上げる
- リサーチモード:一つのテーマを深く調べ、根拠を添えたレポートの形にまとめる
- インラインAI:書きかけの文章をその場で直す、続きを書く、短くする、やわらかい言い回しに変える
- データベースの自動入力:一覧の項目をAIが埋める。工事の分類づけや要約欄の作成に使える
どれも派手な機能に見えますが、中小の建設会社で効いてくるのは地味な二つ、つまり「探す」と「書き起こす」です。図面や写真の解析を期待して入れる道具ではなく、言葉で残る仕事のほうを軽くする道具だと考えると、期待の掛け違いが起きにくくなります。
Notion AIの料金プラン
以前はAI機能だけを別料金のオプションとして追加する形でしたが、現在はプランに含まれる形に整理されています。Notion公式の料金ページに掲載されている金額は次のとおりです(2026年8月時点。為替や改定で変わるため、契約前に必ず公式ページで最新の金額をご確認ください)。
- フリー:0円。AIはお試しの範囲(文書生成やデータベースの自動入力を体験できる程度)
- プラス:月払いで月額1,650円/メンバー、年払いなら月あたり約1,320円。AIはフリーと同じくお試しの範囲
- ビジネス:月払いで月額3,150円/メンバー、年払いなら月あたり約2,520円。エージェント、AIミーティングノート、エンタープライズサーチが使える
- エンタープライズ:個別見積。ビジネスの機能に加えて、AIの提供元にデータを残さないゼロデータ保持などが付く
Notion公式の料金ページに記載されたビジネスプランの月払い価格。AIエージェントやAIミーティングノートを日常的に使うにはこのプラン以上が必要(2026年8月時点)
月額3,150円/人
Notion 公式「料金プラン」
フリーとプラスのAIはあくまで体験の範囲で、業務に組み込む用途には足りません。試すだけならフリーで十分ですが、議事録や横断検索を毎日使う想定なら、最初からビジネスプランの金額で計算しておくほうが安全です。事務所5人なら月1万5千円強、10人なら月3万円強が目安になります。なお、全員に配る必要はなく、まず書く人・探す人だけに配って様子を見る買い方もできます。
建設現場・事務所での使い方
建設業は、そもそも一人あたりの働く時間が長い業界です。国土交通省の『国土交通白書2025』では、2023年度の建設業の年間実労働時間は2,018時間で、他産業より62時間ほど長いとされています。この差を埋めるのに、現場作業そのものを速くするのは簡単ではありません。だからこそ、探す・書く・伝えるといった事務側の時間から削るのが現実的で、Notion AIが向くのはまさにその領域です。
2023年度の建設業の年間実労働時間。他産業と比べて62時間ほど長い水準が続いている
年2,018時間
国土交通省『国土交通白書2025』
- 社内wikiとして:安全書類の様式、提出先ごとの必要書類、協力会社の連絡先、道具の置き場所。「毎年誰かが同じことを聞く」情報をページにして、AIに探させる
- 打合せの議事録:施主打合せや協力会社との調整をAIミーティングノートで記録し、決まったこと・持ち帰りを整理する
- 日報や週報の要約:現場から上がってきた記録をまとめ、所長や社長が読む形に短くする
- 見積の下調べ:過去の類似工事のページを横断して探し、単価の考え方や特記事項を引っ張り出す
- 新人・中途の教育:入社時に読むページをひとまとめにし、分からない言葉はその場でAIに聞かせる
- 書類の下書き:作業手順書やお客様への説明文の骨子をつくらせ、人が現場に合わせて直す
議事録については、実務上の制約を先に知っておくと段取りしやすくなります。Notionのヘルプによると、AIミーティングノートは日本語を含む複数言語に対応し、対面の打合せでもモバイルアプリのマイクで記録できます。要約をつくるには文字起こしで300文字以上、話し言葉でおよそ1分ぶんが必要とされ、1人あたり1日10時間までという利用上限もあります。発言者のラベル付けは現時点で英語のみという点も、議事録の体裁を決めるときの前提になります。
実際に導入した会社での変化
建設会社そのものの公開事例はまだ多くありませんが、現場を持つ大きな組織の例は参考になります。石油資源開発株式会社(JAPEX)は、2023年1月に社内ポータルとしてNotionを導入しました。同社の事例記事では、情報が新しい順に出てこない、ツールが分かれていてどこにあるか分からない、部署をまたいだ動きが見えないという三つの課題が挙げられ、導入後はあるプロジェクト業務が2日から半日に、日報メールの作成が1人あたり20〜30分ほど減ったとされています。1,600人を超える規模で使われているのも、様式が部署ごとに違う会社にとって示唆があります。
石油資源開発(JAPEX)がNotionを社内ポータルとして導入した後のプロジェクト業務にかかる時間。日報メールの作成も1人あたり20〜30分削減されたとされる
2日 → 半日
Notion 導入事例「石油資源開発株式会社」
もう一つ、トヨタ自動車の未来創生センターの事例では、SNS投稿の承認作業が1件15分から5分に短縮され、資料づくりの時間も従来の半分以下になったと紹介されています。同社の担当者は「記憶力頼り」だった仕事が、いつでも情報にたどり着ける安心感のあるものになったと語っています。承認の往復と資料づくりに時間を取られる構図は、建設会社の稟議や施主提出書類とも重なるところがあります。
メリットと注意点
社内wikiの効き目は、探す本人の時間だけではありません。「あれどこですか」と聞かれて手を止める側の時間も一緒に減ります。ベテランの所長や事務長ほど、この割り込みで一日が細切れになりがちです。答えをページにしてAIから引ける形にしておくと、聞く側も遠慮なく自分で調べられるようになります。
気をつけたいのは、まず見せる範囲の設計です。Notionのヘルプによれば、Notion AIは既存の権限を尊重し、そのユーザーがもともと見られない情報をAIの回答に使うことはないとされています。裏返せば、誰にどのページを見せるかを決めた時点で、AIが何を答えるかも決まります。原価や外注費、人事にかかわるページは、AIを入れる前に共有範囲を整理しておくのが順序です。
データの扱いについても、公式ヘルプに説明があります。既定では顧客データをモデルの学習には使わず、AIの提供元(Notionは自社で動かすモデルに加えてAnthropicとOpenAIのモデルを利用)でのデータ保持は、エンタープライズ以外のワークスペースで30日以内、エンタープライズではゼロデータ保持とされています。とはいえ、施主の個人情報や図面をどこまで入れてよいかは各社の判断です。詳しくは情報漏洩対策の考え方とあわせて、社内ルールを一枚決めてから配るとよいでしょう。
- AIの答えは必ず人が確かめる。もっともらしい誤りが混じることがあり、数量や単価、法令に関わる部分は元の資料に当たる
- 現場の電波が弱い場所ではクラウドの読み書きが不安定になる。よく使う書類は紙やPDFの控えも用意しておく
- 書く人がいないと空箱になる。最初は情報を入れる担当を決め、月に一度は古い記述を直す時間をとる
- 既存の業務システムと役割を分ける。原価管理や工程は専用ソフト、決めごとと手順はNotion、という線引きにすると重複しにくい
- 費用対効果は時間で測る。導入前に「探す時間」「議事録づくりの時間」をざっと計っておくと、効果を後から説明できる
小さく始める進め方
- 1
よく聞かれることを書き出す
事務所で一週間、社員から聞かれた質問をメモします。提出書類の様式、道具の借り方、協力会社の連絡先。十件も並べば、最初につくるべきページが自然に決まります。
- 2
無料の範囲でページをつくる
まずはフリープランで、書き出した質問の答えをページにします。この段階では体裁を凝らず、箇条書きで十分です。AIを入れる前に、探して見つかる状態をつくるのが先です。
- 3
ひとつの現場で議事録を試す
AI機能はビジネスプランからなので、担当者数人ぶんだけ契約し、ひとつの現場の打合せで議事録づくりを試します。要約の精度と、直しにかかる手間を実際に確かめます。
- 4
見せる範囲を決める
金額や個人情報を含むページの共有範囲を整理し、誰がどこまで見られるかを一覧にします。ここを曖昧にしたまま人数を増やすと、あとから直すのが大変になります。
- 5
月に一度、手入れをする
古くなった記述を直し、使われていないページを畳みます。使う人を増やすのは、この手入れの流れができてからにすると、荒れた書庫になりにくくなります。
よくある質問
Q無料プランでもNotion AIは使えますか+
使えますが、体験の範囲にとどまります。Notion公式の料金ページでは、フリーとプラスに含まれるのは文書生成やデータベースの自動入力を試せる程度のAI機能とされており、エージェントやAIミーティングノート、横断検索はビジネスプラン以上です。まずは無料でページづくりを始め、AIを本格的に使う段になったら必要な人数ぶんだけビジネスプランに上げる、という進め方が無理がありません。
QChatGPTを使っていれば、Notion AIは要りませんか+
役割が違うので、両方を使い分けている会社もあります。文章を考える、たたき台をつくるといった用途はチャットAIが得意で、自社に溜めた議事録や手順書を土台に答えるのはNotion AIの領分です。すでに社内の資料がNotionに集まっているなら、探す手間が減る効果は大きくなります。逆に資料が共有サーバーや紙のままなら、まず移す作業のほうが先になります。
Q現場の職人にも使ってもらえますか+
全員に使わせようとすると、たいてい止まります。現実的なのは、事務所と施工管理の担当者が中心に使い、現場にはできあがった手順書や連絡事項をスマートフォンで見てもらう形です。入力を求めるなら、写真を送るだけ、選択肢を選ぶだけといった一手で終わる作業に絞ります。電波の弱い現場では読み込みに時間がかかることもあるため、朝礼で使う資料は事前に開いておくなどの工夫が要ります。
Q打合せの議事録は日本語でも文字起こしできますか+
できます。Notionのヘルプでは、AIミーティングノートの対応言語に日本語が含まれています。ただし要約を生成するには文字起こしで300文字以上、話し言葉でおよそ1分ぶんが必要とされ、発言者のラベル付けは現時点で英語のみです。対面の打合せはモバイルアプリのマイクで記録できますが、屋外や重機の音が入る場所では精度が落ちるため、静かな会議室での打合せから試すのが無難です。
Q入れた情報がAIの学習に使われませんか+
Notionの公式ヘルプでは、既定では顧客データをモデルの学習に使わないと明記されています。AIの提供元でのデータ保持も、エンタープライズ以外のワークスペースで30日以内、エンタープライズではゼロデータ保持とされています。ただし、これはあくまでNotion側の取り扱いです。施主の個人情報や機密性の高い図面をどこまで載せるかは自社で線を引く必要があり、心配な場合は契約前に販売元へ確認し、社内の利用ルールを文書にしておくことをおすすめします。
関連用語
文字起こしAI(議事録AI)
打合せや朝礼の音声を文字に起こし、要点をまとめる仕組み。AIミーティングノートの土台になる技術です。
詳しく見る →ChatGPT
対話形式で文章づくりを手伝うAI。Notion AIとの向き不向きの違いを押さえておくと選びやすくなります。
詳しく見る →情報漏洩対策
クラウドやAIに社内情報を預けるときの考え方と、中小建設会社が最低限決めておきたいルール。
詳しく見る →AI番頭では、どの業務から手をつければ効果が出るのかの見立てから、道具選びと社内ルールづくりまでを一緒に整理しています。詳しくはサービス内容をご覧ください。「うちの規模でNotion AIは合うのか」といったご相談も承っております。
出典・参考
Notion 公式「料金プラン」
https://www.notion.com/ja/pricing
出典を開く →Notion 公式「Notion AI」製品ページ
https://www.notion.com/ja/product/ai
出典を開く →Notion ヘルプ「AIミーティングノート」
https://www.notion.com/help/ai-meeting-notes
出典を開く →Notion ヘルプ「Notion AI のセキュリティに関する取り組み」
https://www.notion.com/help/notion-ai-security-practices
出典を開く →Notion 導入事例「石油資源開発株式会社(JAPEX)」
https://www.notion.com/customers/japex-jp
出典を開く →Notion 導入事例「トヨタ自動車 未来創生センター」
https://www.notion.com/customers/toyota-jp
出典を開く →Notion Labs Japan プレスリリース「Notion、『Notion AIエージェント』を発表」(2025年9月19日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000063.000088144.html
出典を開く →国土交通省『国土交通白書2025』第1節 担い手不足等によるサービスの供給制約
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r06/hakusho/r07/html/n1111000.html
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