ChatGPTは便利だが、毎回同じ指示を打ち直すのが面倒。自社の見積要領や安全書類の様式を覚えさせておきたい。誰が使っても同じ品質の答えを返す仕組みにしたい。こうした「うちの会社専用のAI」を作ろうとすると、これまではシステム開発を発注するしかありませんでした。Difyは、その部分をプログラムなしで組み立てられるようにした道具です。この記事では、Difyがどんなものか、何ができるのか、実際に導入した会社で何が起きたのか、そして中小の建設会社が試すときの手順と落とし穴を順に見ていきます。

Difyとは

Difyとは、プログラムのコードを書かずに生成AIのアプリケーションを作れる、オープンソースの開発プラットフォームです。米LangGenius社が開発しており、公式ドキュメントでは「独自データを活用したエージェント、エージェンティックワークフロー、チャットボットを構築し、Webアプリとして公開したりAPIで既存システムに組み込んだりできる基盤」と説明されています。画面上で部品を線でつなぐように処理の流れを組み立てるため、エクセルの関数が書ける程度の方でも形にできます。

分かりやすい違いは、ChatGPTが「対話する道具」であるのに対し、Difyは「対話する道具を作るための工房」だという点です。ChatGPTでは毎回人が指示を打ち込みますが、Difyでは指示文(プロンプト)と参照させる資料、処理の順番をあらかじめ固めた小さなアプリを作り、社内の誰もが同じ入り口から使えるようにします。考え方はノーコード/ローコードと同じで、対象が業務アプリではなく生成AIアプリになったもの、と捉えると分かりやすいでしょう。

特定のAIに縛られない

Difyは自前のAIを持っているわけではなく、外部の大規模言語モデルを呼び出して動かす仕組みです。公式のGitHubでは、数十社のプロバイダーが提供する数百のモデルに対応すると説明されています。つまり、同じアプリのまま裏側のAIだけを差し替えられます。より賢いモデルが出たとき、あるいは費用を抑えたいときに、作った仕組みを捨てずに済むのは実務上の大きな利点です。

Difyで作れるもの

Difyで作れるアプリは、大きく次の型に分かれます。最初は上の二つだけ覚えておけば十分です。

  • チャットボット:社内の資料を読ませ、質問に答えさせる。安全書類の書き方や社内規程の問い合わせ窓口に向く
  • テキスト生成:入力した内容をもとに文章を作る。日報から週報を起こす、写真の説明文を作るといった単発の処理に向く
  • ワークフロー:複数の処理を順番につなぐ。文字起こしの整形、要点の抽出、担当者への通知までを一本の流れにする
  • チャットフロー:会話しながら、条件によって処理を枝分かれさせる。外部のシステムを呼び出す使い方もできる
  • エージェント:目的を伝えると、必要な道具を自分で選んで手順を進める。GMO Developersの解説でも、検索や計算といった外部ツールとの連携が特徴として挙げられている

特に注目されているのが、社内資料を読み込ませて回答の根拠にするRAG(検索拡張生成)の機能です。PDFやワード文書を登録しておくと、質問に関係する部分だけを探し出してAIに渡してくれます。一般的な生成AIが苦手とする「自社の中にしかない情報」を扱えるようになるため、社内向けの用途ではここが要になります。

ワークフローの組み立て方

Difyの中心にあるのがワークフローです。実際の作業は、工程表を書くのに似ています。おおまかには次の順で進みます。

  1. 1

    入り口を決める

    利用者に何を入力してもらうかを決めます。文章を貼り付ける欄、ファイルを添付する欄、工種を選ぶプルダウンなどを置きます。ここを絞り込むほど、現場の人が迷わず使えるようになります。

  2. 2

    参照させる資料を登録する

    社内規程、見積の要領書、過去の議事録などをナレッジとして登録します。登録した文書は自動的に細かく区切られ、質問に近い箇所が検索されるようになります。どの資料を入れるかで回答の質が決まるため、最も時間をかけるべき工程です。

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    AIへの指示文を書く

    役割、守ってほしい条件、出力の形式を文章で指定します。「建設会社の事務担当として」「箇条書きで五項目まで」「分からない場合は分からないと答える」といった具合です。ここが作り込みの中心で、社内で共有できる資産になります。

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    処理をつなぐ

    分類、要約、翻訳、条件分岐といった部品を線でつなぎ、流れを作ります。ひとつのAIに全部やらせるより、小さな処理に分けて順に渡したほうが安定します。

  5. 5

    試して直し、社内に公開する

    実際の日報や議事録を十本ほど流し込み、出力を確認して指示文を調整します。納得できたらWebアプリとして公開したり、社内のチャットに組み込んだりします。公開後も、ログを見ながら手直しを続けます。

AI侍AI侍
はじめから大掛かりな仕掛けを組もうとしてはなりませぬ。一つの帳面、一つの手間を減らす小さなからくりから試すがよろしゅうござる。

建設業での使いどころ

建設業は、会社ごと・現場ごとに書類の様式や進め方が違う仕事です。既製のAIサービスを入れても「うちのやり方に合わない」となりがちで、かといって専用開発は費用がかさむ。この隙間を埋める道具として、Difyのような自作できる基盤は選択肢になります。想定しやすい使い方は次のとおりです。

  • 社内規程・安全書類の問い合わせ窓口:就業規則や安全衛生の手引きを登録し、「この場合の書類は何が要るか」に答えさせる
  • 打合せ記録の整形:文字起こしした議事録から、決定事項・宿題・期限だけを抜き出して定型の様式に流し込む
  • 日報から週報・工事報告への転記:現場が入力した短文をまとめ、施主向けの文章に整える
  • 見積の下書き支援:過去の見積書と仕様書を読ませ、拾い漏れが起きやすい項目を洗い出させる
  • メールや挨拶文の作成:協力会社や施主へのやり取りの下書きを、社内の言い回しに合わせて作る
  • 資料の要約:仕様書や設計変更の通知など、長い文書の要点を先に把握する

もっとも、業界全体で見ればまだ入口の段階です。インフォマートが2026年6月に公表した建設業従事者1,040名への調査では、生成AIを業務で利用している人の割合は次のとおりでした。

建設業で生成AIを業務利用している人の割合。総務省の令和7年版情報通信白書が示す国内企業全体の55.2%を大きく下回る。利用しない理由は「自分の仕事には関係がない・興味がない」が41.0%で最多

33.1%

インフォマート「建設業のDXとAI活用に関する実態調査」(2026年6月)/総務省 令和7年版情報通信白書

同じ調査では、生成AIの社内ルールが整備されている企業は18.0%にとどまり、ルールがない企業が38.9%を占めています。使い方を広げる前に、扱ってよい情報の線引きを決めておくほうが、結局は早く進みます。

導入した会社で起きたこと

公開されている事例を見ると、Difyが評価されている理由がはっきりします。食べログや価格.comを運営するカカクコムでは、テクノロジー本部の担当者が2024年6月のDify Meetup Tokyoで自社の取り組みを発表しています。AIエンジニアの不足と、試作から本番までの時間の長さが出発点だったと説明されており、セキュリティを考慮して自社のサーバー上で動かす形を選んでいます。

食べログの店舗紹介記事の作成支援システムを、Difyのアプリとして作り直した際の開発期間の変化

1か月から1日へ

カカクコム 時田充氏「全社的な生成AI活用プラットフォームとしてのDifyの導入事例紹介」Dify Meetup Tokyo

同じ資料では、価格.comの製品情報登録を自動化する取り組みについて、スペックの抽出精度が58%という途中経過の数字も率直に示されています。作るのが速いことと、そのまま実務で使えることは別の話だ、という点は押さえておきたいところです。試作が一日でできるからこそ、精度を上げる作業に時間を回せる、と読むのが実態に近いでしょう。

利用が広がった段階の例もあります。サイバーエージェントの開発者ブログ(2025年5月)によると、社内にDifyの基盤を用意したところ、開始から6か月で社内利用者は1,800名弱に達し、そのうち25%以上が毎週使うアクティブユーザーになったといいます。

社内アンケート(2025年3月)で試算された業務効率化の効果。社員の約20%がDifyを利用しているとされる

月3,000時間

CyberAgent Developers Blog(2025年5月26日)

リコーも自社での活用を公開しており、2026年5月時点で6,500人以上が利用し、9,300を超えるアプリが作られたとしています。紹介されているのは、イベントの招待メールを自動で作る、顧客の課題を言語化して提案の筋道を考える、といった営業まわりの小さなアプリです。派手な仕組みではなく、日々の細かい手間を一つずつ削る使い方が積み上がっている点は、建設会社が参考にしやすいところです。

数を作れることが効いている

これらの事例に共通するのは、大きなシステムを一つ作ったのではなく、部署ごとに小さなアプリを大量に作っている点です。作るのが速く、要らなくなれば捨てられるからこそ、現場が自分で試せる。効果は一本あたりの大きさではなく、本数で出ています。

料金とセルフホスト

Difyには、提供元のサーバーを使うクラウド版と、自社の環境に入れて動かすセルフホスト版があります。公式の料金ページによると、クラウド版は無料のSandbox(1ワークスペース・5アプリ・ナレッジ50文書など)から始まり、Professionalが年額590ドル/ワークスペース、Teamが年額1,590ドル/ワークスペース、大規模組織向けのEnterpriseは個別見積となっています。セルフホストのCommunity版は無料で、機能はオープンソースとして公開されています。金額や制限は改定されることがあるため、検討時には公式ページで最新の内容を確認してください。

見落としやすいのが、Difyの利用料とは別に、裏側で呼び出すAIモデルの従量課金がかかる点です。Difyはあくまで組み立てと運用の基盤で、実際に文章を作るのは外部のモデルです。長い資料を何度も読ませる使い方では、こちらの費用のほうが大きくなることもあります。

ライセンスの扱いに注意

DifyはGitHub上でDify Open Source Licenseとして公開されており、Apache 2.0に追加条件を加えたものと説明されています。自社の業務で使うぶんには問題になりにくい一方、Difyを土台にして自社ブランドのサービスを外部に販売するような使い方には条件が付きます。社外向けの商売に組み込む計画があるなら、事前にライセンス条項を確認してください。

メリットと注意点

試して捨てられる速さ

紙で仕様を書いて外注すると、動くものを見るまでに数か月かかります。Difyは、思いついた仕組みをその日のうちに形にして、現場に見せられます。使われなければ消せばよい。この「捨てられる」ことが、AIのように事前に効果を読みにくい分野では特に効いてきます。

情報の置き場所を先に決める

クラウド版を使う場合、登録した資料や入力内容は社外のサーバーを経由します。施主の図面、単価が入った見積、個人情報を含む名簿などをそのまま入れてよいかは、会社として判断が必要です。カカクコムが自社サーバーでの運用を選んだのも、この点への配慮からだと説明されています。扱ってよい情報の線引きを決めてから、アプリを作り始めてください。

作れることと、任せられることは違う

生成AIは、資料に書かれていないことをもっともらしく作文することがあります。見積の金額、法令の要件、契約の条件など、間違いが実害につながる部分は、必ず人が確認する前提で組んでください。抽出精度が58%という公開事例が示すとおり、最初から実務に耐える精度が出るとは限りません。

誤った内容がもっともらしく出てくる現象についてはハルシネーションの解説、社内での取り扱いルールの作り方は生成AI利用ガイドラインの解説、クラウドに業務データを預けるときの考え方は情報漏洩対策の解説にまとめています。

もう一つの注意点は、担い手です。作りやすい反面、社内に大量のアプリが増え、誰が何のために作ったのか分からなくなる問題は、事例を公開している会社でも共通の課題として挙げられています。アプリの一覧と管理者を記した一枚の台帳を、二つ目を作る前に用意しておくと後が楽になります。

中小の建設会社が試すときの手順

  1. 1

    同じ説明を繰り返している仕事を探す

    全社の業務を見渡すのではなく、事務所で同じ質問を何度も受けている場面を探します。書類の書き方、提出先、休暇の申請方法。これらは資料が既にあり、答えが決まっているため、最初のアプリに向いています。

  2. 2

    無料の範囲で一本だけ作る

    クラウド版の無料枠で、社内資料を数点登録したチャットボットを作ります。ここで大事なのは完成度ではなく、自社の資料でまともに答えられるかどうかの見極めです。使えないと分かったら、それも収穫です。

  3. 3

    扱ってよい情報の線引きを決める

    本格的に使う前に、入れてよい資料と入れてはいけない資料を分けます。施主名や単価、個人情報の扱いをどうするか。ここを決めないまま広げると、後から止められなくなります。

  4. 4

    一つの部署で一か月使う

    全社に広げる前に、事務所か一つの現場で一か月使います。問い合わせが何件減ったか、書き直しが何回発生したか。始める前に合格ラインを決めておくと、続けるかどうかの判断がぶれません。

  5. 5

    運用する人を決めてから広げる

    指示文の手直し、資料の入れ替え、利用者の追加を誰がやるかを決めます。片手間では止まります。二人で触れる形にしておくと、異動や退職があっても続きます。

一つの部署で試す段階の進め方はPoC(概念実証)の解説が参考になります。どの業務から手を付けるか、Difyのような自作の道具で足りるのか既製のサービスを選ぶべきかの見極めは、社内だけでは判断しにくいところです。AI番頭のサービスでは、現状の帳票と問い合わせの棚卸しから一緒に進めています。

よくある質問

QChatGPTがあれば、Difyは要りませんか?
A

個人が調べ物や下書きに使うだけなら、ChatGPTで足りることが多いです。差が出るのは、同じ作業を複数人が繰り返すときです。指示文を作り込んで固定し、社内資料を参照させ、誰が使っても同じ形式で出力させたい。この段階になると、都度打ち込む使い方では品質が揃いません。Difyはその「型を作って配る」部分を担う道具です。

Qパソコンに詳しい社員がいなくても使えますか?
A

資料を登録して質問に答えさせるだけの簡単なチャットボットなら、エクセルの関数が書ける方であれば作れることが多いです。ただし、処理を枝分かれさせたり、既存のシステムとつないだりする段階になると、調べる時間がそれなりに必要になります。まずは無料枠で一本作ってみて、自社で扱えそうかを確かめるのが確実です。

Q入力した情報が外部に漏れませんか?
A

クラウド版を使う場合、資料や入力内容は提供元のサーバーを経由し、さらに裏側のAIモデルにも渡ります。各サービスの規約で学習利用の有無を確認したうえで、社内で扱ってよい情報の範囲を決めてください。より厳しい要件がある場合は、自社の環境に入れて動かすセルフホスト版という選択肢もあります。ただし、その場合はサーバーの管理と安全対策の責任が自社側に移ります。

Qどのくらいの費用を見ておけばよいですか?
A

Dify自体は無料枠から始められ、有料プランも公式の料金ページに明記されています。加えて、裏側で呼び出すAIモデルの利用料が使った分だけかかります。長い資料を何度も読ませる使い方では後者が膨らむため、一か月試して実際の利用料を測ってから、本格導入の予算を立てるのが安全です。

関連用語

RAG(検索拡張生成)

社内資料を読ませて回答の根拠にする仕組み。Difyで社内向けアプリを作るときの中心になる考え方。

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ノーコード/ローコード

コードを書かずに業務アプリを作る開発手法。Difyはその考え方を生成AIに広げたもの。

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ChatGPT

対話型の生成AIサービス。Difyとの役割の違いを押さえると、使い分けが見えてくる。

詳しく見る

どの業務から着手すれば効果が出るのか、現状の棚卸しからご相談いただけます。

出典・参考

Dify 公式ドキュメント「Introduction」

https://docs.dify.ai/en/introduction

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Dify 公式サイト 料金プラン

https://dify.ai/pricing

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GitHub langgenius/dify(Dify Open Source License)

https://github.com/langgenius/dify

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時田充(カカクコム テクノロジー本部)「全社的な生成AI活用プラットフォームとしてのDifyの導入事例紹介」Dify Meetup Tokyo(2024年6月27日)

https://speakerdeck.com/tokita_kakaku/quan-she-de-nasheng-cheng-aihuo-yong-puratutohuomutositeno-difynodao-ru-shi-li-shao-jie

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CyberAgent Developers Blog「サイバーエージェント社員の20%が使うAIプラットフォーム『Dify』、プロダクト主導で3,000時間/月削減する方法」(2025年5月26日)

https://developers.cyberagent.co.jp/blog/archives/56492/

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リコー「【保存版】リコーのDify社内活用事例5選!具体的なアプリの作成方法もご紹介」

https://promo.digital.ricoh.com/ai/column/detail096/

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インフォマート「建設業のDXとAI活用に関する実態調査」(2026年6月10日)

https://corp.infomart.co.jp/news/20260610_6175/

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総務省 令和7年版情報通信白書「企業におけるAI利用の現状」

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html

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GMO Developers「ノーコードで始めるAIアプリ開発:Difyの概要と活用可能性」(2025年7月10日)

https://developers.gmo.jp/technology/66874/

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