検査のたびに図面を丸めて小脇に抱え、黒板とチョーク、デジカメ、指摘票の束を持って現場をまわる。事務所へ戻ってから写真を取り込み、業者ごとに指摘を仕分けし、エクセルに貼って帳票にする。この「持ち歩き」と「戻ってからの作業」をタブレット1台にまとめてしまおう、という発想でつくられているのがSPIDERPLUS(スパイダープラス)です。この記事では、SPIDERPLUSとは何なのか、どんな機能があるのか、配筋検査や仕上検査といった現場の場面でどう使うのか、料金はどういう考え方なのか、そして実際に導入した会社で何が変わったのかを、順にご説明します。似た立ち位置のサービスとの違いや、入れる前に知っておきたい注意点にも触れます。
SPIDERPLUS(スパイダープラス)とは
SPIDERPLUSとは、スパイダープラス株式会社が提供する現場管理アプリです。公式サイトでは建築業・空調衛生設備業・電気工事業・プラント/工場設備業向けと案内されており、図面管理、写真管理・電子黒板、資料閲覧、帳票作成を基本機能として、そこに業種ごとの検査機能や進捗管理機能を足していく形になっています。会社は東証グロース市場に上場しており、サービス自体は建設現場向けのクラウドサービスとしては古株の部類に入ります。
似たようなサービスは多くありますが、SPIDERPLUSの性格をひとことで言うと図面を中心に据えた現場管理アプリです。案件の中に写真フォルダや連絡帳が並ぶのではなく、まず図面があり、その図面の上のどこで撮った写真か、どこに出た指摘かという形で情報がひもづいていきます。だから「あの部屋のあの箇所の記録」を探すとき、フォルダ名や日付ではなく、図面上の位置から辿れます。逆にいえば、図面をきちんと取り込んで整理する最初の手間を惜しむと、持ち味が出ないサービスでもあります。
建設向けのクラウドサービスは元請けのゼネコンや工務店を主な相手にしているものが多いのですが、SPIDERPLUSは空調衛生設備業や電気工事業、プラント・工場設備業にも専用の機能を用意しています。試験・測定の記録や指摘管理といった、サブコン・専門工事会社の実務にそのまま当たる機能が並んでいるのは、他のサービスとの分かれ目になる部分です。
SPIDERPLUSでできること(主な機能)
機能は、全業種で共通して使う基本機能と、業種ごとに足していく機能に分かれています。すべてを最初から使う会社はまれで、自社の困りごとに近い順に広げていくのが一般的な入り方です。
全業種で使う基本機能
- 図面管理:最新の図面をクラウドに置き、タブレットで開いて閲覧・書き込みができる土台の機能
- 写真管理・電子黒板:画面上で黒板をつくり、撮影と同時に工事名や工種を写真に載せて整理する
- 資料閲覧:施工計画書、仕様書、カタログなどのかさばる書類を端末の中にまとめて持ち歩く
- 帳票作成:撮りためた写真や検査記録を、決まった様式の帳票として出力する
業種ごとに足していく機能
- 建築業向け:杭施工記録、配筋検査、指摘管理、仕上検査、進捗管理
- 空調衛生設備業向け:指摘管理、進捗管理、試験・測定
- 電気工事業向け:指摘管理、進捗管理、試験・測定
- プラント・工場設備業向け:SPIDER+ for Plant
- その他:S+Report、S+Collabo、S+BIM、S+Partner、S+BPO、S+Trace といった関連サービス
ひとつずつは目新しい機能ではありません。効いてくるのは、これらがすべて同じ図面の上でつながっている点です。検査で出した指摘も、そのとき撮った写真も、後で出す帳票も、図面上の同じ位置を指しています。紙とデジカメで回していた工程を丸ごと置き換えられるため、建設DXの入口として選ばれることが多いサービスです。
図面を起点にする仕組み
難しく考えず、一つの現場が始まってから帳票を出すまでの流れを追いかけると、仕組みはすぐにつかめます。
- 1
図面を取り込む
その現場で使う図面をクラウドに登録します。ここが起点になるので、版の管理をこの段階で決めておくと後が楽になります。差し替えが起きたときに誰が入れ替えるのかも、あわせて決めておきます。
- 2
端末に落として現場へ持ち出す
登録した図面をタブレットに取り込んでおけば、通信環境が悪い現場でも図面を開けます。丸めた図面や書類の束を持ち歩かなくてよくなるのは、この段階の効果です。
- 3
図面上にピンを立てて記録する
撮影した写真や検査の結果を、図面上のその位置にひもづけて残します。電子黒板は画面上で作れるので、黒板とチョークを持つ必要がなくなります。
- 4
指摘を関係者へ振り分ける
検査で出た指摘を業者ごとに振り分け、是正の依頼として渡します。現場を歩きながらその場で指示が出せるため、事務所と現場を往復する回数が減ります。
- 5
帳票として出力する
たまった写真と記録から、必要な様式の帳票を出します。写真を選び直したり貼り直したりする作業が要らなくなる、というのがこの段階の狙いです。
肝は、記録が「あとでまとめる作業」ではなく「そのときの作業」に変わることです。現場で撮った時点で図面上の位置と工種がひもづいているので、夜に事務所へ戻ってパソコンに向かう時間が、そのぶん要らなくなります。
建設現場での使い方
工事写真の撮影と整理
もっとも早く効果が見える場面が写真です。デジカメで撮り、事務所のパソコンに取り込み、工種ごとのフォルダに振り分け、必要な分をエクセルに貼る。この一連の作業が、撮影時に画面上の電子黒板を出して撮るだけに置き換わります。撮った瞬間に図面上の位置・工種・撮影日がひもづくので、後から特定の箇所の写真を探すときも、フォルダを掘る必要がありません。撮り忘れや取り込み忘れによる手戻りも減ります。
配筋検査
配筋の検査では、構造図から検査箇所ごとの豆図を切り出す事前準備に時間を取られがちです。SPIDERPLUSの配筋検査機能では、この豆図の切り出しをAIが半自動で行い、豆図の情報から検査箇所を図面上に自動登録するところまでを担います。公式サイトには、豆図の検出は自動でできるものの、構造図の範囲の設定や確定は手動で行う必要がある、という注記も添えられています。
配筋検査の事前準備における削減率。スパイダープラスが公式サイトで「当社調べ。当社の従来の機能と比較して80%の工数を自動化」と注記のうえ公表している数値
工数を80%自動化
SPIDERPLUS「配筋検査機能」
仕上検査と指摘管理
マンションのような住戸数の多い工事では、自主検査・社内検査・施主検査を住戸ごとに行い、出た指摘を関連業者ごとに仕分けて紙にまとめる作業が積み上がります。仕上検査機能と指摘管理機能を使うと、図面上に指摘を登録してそのまま業者へ振り分けられるため、紙の指摘表をつくり直す手間が減ります。どの指摘がまだ残っているかも一覧で見えるので、引き渡し直前の抜けが起きにくくなります。
帳票づくりと提出書類
検査が終わったあとの帳票出力までがひと続きになっているのが、このサービスの実務上の強みです。写真台帳や検査記録を様式に合わせて出力できるため、月末や竣工前にまとめて発生していた書類作業が平準化されます。施工図や仕様書といったかさばる資料も端末に入れて持ち歩けるので、現場で「その図面は事務所にある」という状況が起きにくくなります。
導入した会社では何が変わったか
スパイダープラスが公開している導入事例には、社員100名前後の会社の例も含まれています。出どころがはっきりしているものを三つ紹介します。
総合建設会社・西田工業株式会社(社員96名、現場監督30名)が、検査作業の人員について公開している変化。あわせて残業削減により月30,000円のコストダウンにつながったと紹介されている
検査 3名 → 2名
SPIDERPLUS導入事例「西田工業株式会社」
同社の事例では、大量の図面が書庫を圧迫していたこと、黒板やホワイトボードの手書き文字の見やすさに人によってばらつきがあったこと、検査前の図面・写真の整理に長時間かかり応援の作業員が必要だったことが、導入前の課題として挙げられています。導入後は黒板・カメラ・図面をそれぞれ持ち歩く必要がなくなり、タブレット1台で現場をまわれるようになったと述べられています。ベテラン社員と若手の会話が増えた、という副次的な変化も紹介されています。
水道工事を手がける有限会社大城水道工事社が、導入後の残業時間として公開している水準。導入前はデジカメ撮影後に事務所で写真整理を行い、撮り忘れや取り込み忘れによる手戻りが発生していた
月間残業10時間以下
SPIDERPLUS導入事例「有限会社大城水道工事社」
同社の事例では、「撮影時に黒板を持たなくて済むこともメリット。工事の流れが飛躍的に良くなる」という声や、「写真があることによって明確な情報引き継ぎができるため、ピンチヒッター社員がすぐに対応できるようになった」という声が紹介されています。担当者が急に代われない、という中小規模の会社ならではの弱点に効いた例といえます。
北海道の岩倉建設株式会社の事例では、マンションの仕上検査を従来2〜3人体制で行っていたところ、1名で対応することも可能になったと述べられています。現場巡視と並行して指示書を作成できるようになり、事務所への往復が不要になったこと、検査後に事務所でまとめる時間が大幅に短縮されたことも、あわせて紹介されています。
ここで挙げた数値は、いずれも各社が自社の状況について語ったものです。工種、現場数、住戸数、もともとの業務のやり方によって効果は変わりますし、実測値と体感値が混ざっている点にも注意が要ります。判断材料としては、数字そのものより「どんな課題がどう解けたか」の筋道のほうが参考になります。
こうした現場単位の効率化は、業界全体の事情ともつながっています。建設業では2024年4月から時間外労働の罰則付き上限規制が適用され、残業を前提にした工事の回し方が通らなくなりました。国土交通省も2024年4月に策定した「i-Construction 2.0」で、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性を1.5倍に高めることを目標として掲げています。人が増えないことを前提に工事を回す仕組みづくりが、公共の側からも求められている状況です。
料金の考え方
SPIDERPLUSの料金は、公式サイトに金額表が公開されていません。導入する機能や規模によって変わるため、見積りは公式に問い合わせて取る形になります。第三者の比較サイトには、初期費用に加えて利用者1IDあたりの月額とサーバー利用料がかかる形式として金額が紹介されていることがありますが、条件や時期によって変わるうえ出どころもさまざまなので、参考程度に留めて実際の金額は公式に確認するのが確実です。
ID数の数え方(自社だけか、協力会社も含むのか)、使う予定の業種別機能の内訳、初期費用に含まれる導入支援や教育の範囲、契約期間と途中でのプラン変更の可否、図面や写真の保存容量の上限、電子納品や自社の帳票様式への対応可否。この6点を先に整理して聞くと、他社サービスと横並びで比べやすくなります。
費用対効果を考えるときは、削れる作業時間を人件費に置き換えてみるのが分かりやすい方法です。現場担当者3名の残業が月に各10時間減れば、月30時間ぶんの人件費が浮く計算になります。あわせて、図面の印刷代や書庫の保管スペース、検査に付けていた応援要員の工数も見落とさずに数えてみてください。
他の現場管理サービスとの違い
比較検討でよく並ぶのがANDPADです。ざっくり分けると、ANDPADは案件を軸に写真・工程・チャット・受発注・請求までを一元管理する、元請けの業務全体をカバーする性格が強いサービス。SPIDERPLUSは図面を軸に写真と検査と帳票を突き詰める、現場での記録作業そのものを軽くする性格が強いサービス、という違いがあります。受発注や請求を含めて会社全体の流れを変えたいのか、検査と写真整理の負担をまず削りたいのかで、選ぶ側が変わります。
また、設備業や電気工事業の専門工事会社の場合は、試験・測定の記録や指摘管理といった自社の実務にそのまま当たる機能があるかどうかが、比較の分かれ目になります。元請けから指定されて使うケースもあるため、取引先の状況もあわせて確認しておくと無駄がありません。
メリットと注意点
検査の回数が多く、事前準備と事後のまとめに時間を取られている。工事写真の整理に毎月まとまった時間を使っている。図面の版管理が曖昧で、現場が古い図面を見ていたことがある。現場と事務所の往復が多い。書庫が図面で埋まっている。こうした状態にある会社ほど、図面と記録を一か所に集める効果がはっきり出ます。
最初の数か月は、これまでのやり方と新しいやり方が並走します。紙とアプリの二重管理が続くと現場の負担だけが増えるため、「この日からは検査記録は画面上のみ」といった切り替え日を決めることが要ります。また、端末の調達費用や通信費は別途かかりますし、図面を取り込んで整える初期作業にも人手が必要です。この初期の工数を見込まずに始めると、立ち上がりでつまずきます。
- タブレットの操作に不慣れな社員がいる場合、写真撮影など一つの機能に絞って始めるほうが定着しやすい
- 図面の版管理のルールを決めないと、古い版の上に記録が積み上がって後から混乱する
- AIによる豆図の切り出しなどは自動化の範囲が決まっており、範囲の確定など手動の作業は残る
- 使う機能を増やすほど費用も学習コストも積み上がるので、困りごとの大きい順に足していく
- 既存の帳票様式や発注者指定の様式に合わせられるかは、契約前に実物を見せて確認しておく
導入でつまずかないための進め方
- 1
一番痛い業務をひとつ選ぶ
全部を一度に変えようとすると、ほぼ確実に途中で止まります。写真整理か、配筋検査か、仕上検査の指摘管理か。社内で不満がいちばん大きい業務をひとつだけ選びます。
- 2
今のやり方を書き出す
誰が、いつ、何を使って、どれくらいの時間をかけているのかを紙に書き出します。ここを飛ばすと、導入後に「本当に楽になったのか」を判断できなくなります。
- 3
一現場だけで試す
協力的な担当者がいる現場をひとつ選び、そこだけで使います。図面の取り込み方や記録の粒度は、この段階で運用ルールに落とし込みます。
- 4
切り替え日を決めて広げる
試した現場でやり方が固まったら、日付を決めて全現場に広げます。二重管理の期間を短く区切ることが、定着の分かれ目になります。
- 5
三か月後に数字で振り返る
最初に書き出した作業時間と比べます。減っていなければ、道具の問題ではなく運用ルールの問題であることが多いので、そこを直します。
どの業務から手を付けるべきか社内で判断がつかない場合は、業務の棚卸しから相談できる支援先を使うのも手です。AI番頭では、建設業の現場業務を整理したうえで、どの道具をどの順番で入れるかを一緒に決めるサービスをご用意しています。
よくある質問
Q通信環境の悪い現場でも使えますか+
図面をあらかじめ端末に取り込んでおけば、電波の届きにくい場所でも図面の閲覧や記録ができる作りになっています。ただし、クラウドへの同期そのものは通信が必要なので、地下や山間部の現場が多い場合は、どのタイミングで同期するかを運用として決めておくと安心です。契約前に、自社で多い現場の環境を伝えて確認しておくとよいでしょう。
Q配筋検査の準備はどこまで自動になりますか+
公式サイトでは、構造図からの豆図の切り出しをAIが半自動で行い、豆図の情報から検査箇所を図面上に自動登録すると説明されています。ただし、豆図の検出は自動でも構造図の範囲の設定や確定は手動で行う必要がある、という注記が添えられています。準備がゼロになるわけではなく、手作業の大部分が肩代わりされる、という理解が実態に近いです。
Q元請けではなく専門工事会社でも使えますか+
空調衛生設備業、電気工事業、プラント・工場設備業それぞれに向けた機能が用意されており、指摘管理や進捗管理、試験・測定といった機能が並んでいます。元請け向けの案件管理を主目的にしたサービスとは設計が異なるため、自社が担当する工種の記録と帳票が中心の会社にも当てはまりやすい作りです。
Q職人やベテラン社員が使えるか不安です+
実際の導入事例でも、最初は「とにかくこれで写真を撮ってきて」という形で写真撮影だけから始めた会社が紹介されています。慣れていない方に最初から複数の機能を渡すと混乱しがちなので、まず一つの機能に絞り、それが当たり前になってから次を足すのが現実的です。若手が先に覚えてベテランに教える形になり、社内の会話が増えたという例もあります。
Q料金はいくらくらいですか+
公式サイトに金額表は公開されておらず、使う機能や規模によって変わるため、見積りは問い合わせによる個別対応になります。相談する際は、自社の現場数、同時に使う人数、協力会社に使ってもらう予定の有無、必要な帳票様式を先に整理して伝えると、条件に近い提案を受けやすくなります。
関連用語
ANDPAD(アンドパッド)
案件を軸に写真・工程・受発注までを一元管理する建設プロジェクト管理サービス。SPIDERPLUSとよく比較検討されます。
詳しく見る →電子黒板
工事写真の黒板を画面上でつくる仕組み。SPIDERPLUSで最初に効果が出やすい機能の土台になっています。
詳しく見る →施工図
現場で実際に施工するために描かれる図面。SPIDERPLUSはこの図面を起点に記録をひもづけます。
詳しく見る →建設DX
デジタル技術で建設業の働き方そのものを変える取り組み。現場管理アプリの導入はその具体的な一手にあたります。
詳しく見る →自社の場合はどの業務から始めるのが早いか、費用に見合う効果が出そうかを整理したい方は、お問い合わせからご相談ください。現場の状況をうかがったうえで、無理のない進め方をご提案します。
出典・参考
SPIDERPLUS「機能一覧」
https://spider-plus.com/functions/
出典を開く →SPIDERPLUS「配筋検査機能」
https://spider-plus.com/functions/bar/
出典を開く →SPIDERPLUS導入事例「西田工業株式会社」
https://spider-plus.com/case/nishidakougyou/
出典を開く →SPIDERPLUS導入事例「岩倉建設株式会社」
https://spider-plus.com/case/iwakura-kensetsu/
出典を開く →SPIDERPLUS導入事例「有限会社大城水道工事社」
https://spider-plus.com/case/oshirosuidokojisha/
出典を開く →国土交通省 報道発表「『i-Construction 2.0』を策定しました」(2024年4月16日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001085.html
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