現場に行かずに、いまの現場の様子を画面で見ながら明日の段取りを決める。デジタルツインという言葉が指しているのは、およそそういう状態です。立派な3Dの模型をつくる話と受け取られがちですが、模型とデジタルツインを分けるのは見た目の精密さではなく、現実の「いま」がデータとして流れ込んでくるかどうかにあります。この記事では、デジタルツインという言葉の定義、BIM/CIMとの違い、建設現場で実際にどう使われているか、そして人も予算も限られた会社がどこから手を付けられるのかを、総務省と国土交通省の公開資料、大手建設会社が公表している事例をもとに整理します。
デジタルツインとは
総務省の「令和5年版 情報通信白書」は、デジタルツインを「物理・現実世界を対象としたデータをもとにデジタル空間に現実と同じ対象を構築し、様々なシミュレーションを行う技術」と説明しています。日本語にすれば「デジタルの双子」で、現実の建物・設備・現場と対になるものをコンピュータの中につくる、という発想です。
同白書はその特徴として、現在の現象や実績を実況できるリアルタイム性と、デジタル空間での試行や実績によって現実を改善できる双方向性を挙げています。この二つが、従来の図面や3Dモデルとの分かれ目です。現実からデータが上がってくる道と、そこで得た判断を現実に返す道の、両方がつながって初めてデジタルツインと呼べる、と理解すると分かりやすくなります。
設計時につくった3Dモデルは、着工した瞬間から現実と離れていきます。土は掘られ、資材は動き、工程は変わります。その変化を測って反映し続ける仕掛けがないモデルは、精密であっても現実の双子にはなりません。逆に言えば、現場側で何を測るかを決めることが、デジタルツインの出発点になります。
BIM/CIMとの違い
よく聞かれるのが、BIM/CIMとの違いです。両者は競合するものではなく、役割が重なりながら段階が違うと考えると整理しやすくなります。BIM/CIMは、部材や構造物に属性情報を持たせて関係者で共有するための土台です。デジタルツインは、その土台の上に現実で起きていることを重ね、比べて、次の手を決めるための使い方を指します。
- BIM/CIM:設計・施工の情報を3次元モデルに集約する。いわば計画側の器
- デジタルツイン:その器に、位置・稼働・出来形といった現実のデータを重ね続ける
- 共通点:どちらも「形」だけでなく属性情報を持つデータであること
- 違い:デジタルツインは現実側の計測とセットで、時間とともに更新される前提であること
実際、公表されている建設会社の仕組みも、BIMを土台にして現実のデータを重ねる形が主流です。鹿島建設が2020年10月に発表した「3D K-Field」は、既存のK-Fieldをベースとして、建物の3次元情報を持つBIMと連携することで3次元表示を可能としたシステムだと説明されています。土台のモデルと現場の計測は、切り離せない関係にあります。
仕組み:現実をどう写すのか
難しい話に聞こえますが、やっていることは測って、写して、比べて、返す、の繰り返しです。順に見ていきます。
- 1
現実を測る
ドローンやレーザースキャナで地形や出来形を点の集まりとして取る、重機や車両に位置情報の発信機を付ける、カメラやセンサーで稼働状況を拾う。測る手段はいくつもありますが、最初から全部そろえる必要はありません。
- 2
デジタル空間に重ねる
測ったデータを、BIM/CIMのモデルや地形データの上に重ねます。座標を合わせることが要で、ここがずれていると以降の比較がすべて狂います。
- 3
計画とのずれを見つける
設計の位置と実際の位置、予定の工程と実際の進み、想定の重量と実際の吊荷重。重ねてみて初めて、数字の差として違いが見えます。
- 4
試してから動かす
クレーンの据え位置、資材の置き場、仮設の順番などを、デジタル空間で先に動かして無理がないかを確かめます。現場でやり直すより、画面でやり直すほうが安く済みます。
- 5
記録として残して次に渡す
その日の状態がデータとして残るため、後から「いつ、どこが、どうだったか」を確認できます。竣工後の維持管理や、次の類似工事の段取りにも回せます。
建設現場での使い方
国土交通省が令和6年4月にまとめたi-Construction 2.0には、「デジタルツインの活用による現場作業の効率化」という項目が立てられています。そこでは、工程が複雑な工事ではBIM/CIMにより4Dモデルを構築し、施工ステップをデジタル空間で再現するなど事前に作業のシミュレーションを実施すること、さらにデジタルツインの技術を活用して設計情報をAR・VRにより現場に投影し、施工のイメージを関係者全員で共有することで、手戻りやミスの防止につなげることが示されています。
この取り組みが置かれている文脈も押さえておくと、投資の判断がぶれにくくなります。同じ資料は、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性を1.5倍以上に向上することを目指すとしています。人が減っても仕事を回すために、現場の状況をデータでつないでおく。デジタルツインはその手段のひとつとして位置づけられています。
2040年度までに建設現場で目指すとされる省人化の水準(生産性1.5倍以上に相当)
省人化3割
国土交通省「i-Construction 2.0」令和6年4月
具体的な形は、各社が公表している事例が参考になります。大林組は2022年2月に「4D施工管理支援システム」を発表しており、ドローンで取得した点群データによる地形、IoT化した重機の位置や稼働状況、監視カメラの映像、作業員の出面情報をデジタル空間の3Dモデルに反映すると説明しています。同社は、従来は現地で確認していた現場の稼働状況を一元的に見える化することで、施工管理に必要な情報の収集にかかる手間を削減し、現地に行かなくても遠隔からの状況確認を可能とするとしています。
同システムでは、クレーンの位置や方位、ブームや旋回の角度、鉄骨の吊荷重といった情報も扱います。吊荷重や位置をBIMデータ上の設計重量や位置と突き合わせることで、鉄骨部材がいつ取り付けられたかを推測し出来高を算出する、と大林組は説明しています。人が数えて記録していた作業が、動いた記録そのものから割り出せるという発想です。
鹿島建設の「3D K-Field」は、建設現場における資機材の位置や稼働状況、人の位置やバイタル情報等をリアルタイムに3次元で表示するリアルタイム現場管理システムだと説明されています。同社は2020年10月、これを大規模複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」の施設運営ツールとして導入し、各施設や自律走行バスの混雑状況、施設管理スタッフやサービスロボットの稼働状況を把握すると発表しました。施設内には約370個のビーコン受信機が設置されています。工事期間中だけでなく、建てたあとの運営にも同じ仕組みが使われている例です。
清水建設が2022年12月に発表した「Growing Factory」は、初期設計段階から運用段階に至るまでデジタルツインを継続的に活用しながら施設価値の最適化を図るエンジニアリングサービスと説明されています。設計段階でバーチャル空間にプラントモデルのデジタルツインを構築して稼働シミュレーションを重ね、稼働後は稼働データと設計データの比較検証を通じて運用改善を図る、という流れです。建てて引き渡して終わりではなく、運用の期間まで同じデータを使い続ける考え方が表れています。
- 施工計画の事前検証:重機や仮設の配置、施工ステップを着工前に動かして確かめる
- 遠隔での状況把握:現場事務所や本支店から、いまの現場を画面で確認する
- 出来形・出来高の把握:測ったデータと設計データを突き合わせ、進み具合を数字で見る
- 安全の確認:人や重機の位置関係、危険箇所への接近を把握する
- 関係者との共有:発注者や近隣に、完成形や作業の順番を目で見える形で説明する
- 竣工後の運用:設備の稼働や混雑の状況を可視化し、維持管理や運営の判断に使う
街ぐるみのデジタルツイン(PLATEAU)
デジタルツインは一つの現場だけの話ではありません。国土交通省は2020年度からProject PLATEAU(プラトー)を進めており、日本全国の都市デジタルツインの実現を掲げて、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化に取り組んでいます。3D都市モデルは、建築物や道路などを立体で再現しただけのデータではなく、建物の用途や階数といった属性情報を持つ点に特徴があります。
3D都市モデルの整備範囲の見込み。2021年度の全国56都市のオープンデータ化を起点に2025年度末までの拡大が示されている
約300都市
国土交通省 Project PLATEAU
中小の会社にとってありがたいのは、これがオープンデータとして公開されている点です。自社で街を測らなくても、周辺の建物や地形を含んだ状態で計画を検討できます。日照や風、景観の見え方を確かめる建築環境シミュレーションや、近隣説明の資料づくりなど、身近な場面から使い道が見つかります。
メリットと注意点
移動そのものが仕事の時間を食っている会社ほど、遠隔で状況が分かることの効き目は大きくなります。加えて、段取りを画面で先に試せるため、現場でのやり直しを減らせます。手戻り一件を防げるかどうかで、費用の見え方は変わります。
デジタルツインの値打ちは現実と合っていることにあります。測るのをやめた瞬間、画面の中の現場は過去のものになります。それに気づかないまま判断に使うと、図面だけを見ていたときより危うい状態になりかねません。誰がいつ更新するかを決めずに始めないでください。
機器やソフトの初期費用に目が向きがちですが、続くのは通信料、センサーや電池の交換、データの保管、そして更新にかかる人の時間です。公表されている事例の多くは大規模な現場や施設で、そのまま小さな現場に当てはまるとは限りません。試す範囲を絞り、続けられる費用の形にすることが先決です。
もうひとつ、人に関わるデータを扱う点にも配慮が要ります。作業員の位置やバイタル情報を集める仕組みは、安全の確保に役立つ一方で、取得の目的と範囲、保存の期間を決めて本人に説明しておくことが前提になります。協力会社の作業員も対象になるため、社内だけの取り決めでは足りません。データの持ち出しや保管の考え方は、情報漏洩対策とあわせて整理しておくと落ち着きます。
中小建設業はどこから始めるか
現実には、上流から3次元のデータが降りてこない現場がまだ多数です。全国建設業協会が都道府県建設業協会の会員企業に行った「令和7年度 生産性向上の取組に関するアンケート」(令和7年4〜5月実施、回答1,958件)では、設計段階で作成された3次元モデルの提供について「3Dモデルの提供を受けたことがない」と答えた割合が66.6%にのぼりました。土台になるモデルが手元にない状態から、いきなり双子をつくるのは無理があります。
設計段階で作成された3次元モデルの「提供を受けたことがない」と回答した割合(回答1,958件)
66.6%
全国建設業協会「令和7年度 生産性向上の取組に関するアンケート」
一方で、道具の側は軽くなってきています。大林組は2023年4月、高性能PCや特別なスキルを必要とせずに、容易に建設現場のデジタルツインを構築できる「デジタルツインアプリ」を開発したと発表しました。開発の背景として同社は、設計段階ではBIM/CIMの活用が進む一方で施工段階での活用は限定的であり、高性能PCの確保やソフトウェアの操作スキルの習得が課題であったと説明しています。大手が同じところでつまずいたという事実は、中小にとってはむしろ手がかりになります。
- 1
現場の「いま」を一つだけデータにする
全部を測ろうとしないことです。定点カメラ一台でも、重機一台の位置情報でも構いません。毎日同じ条件で残る記録がひとつあれば、そこから比べる作業が始められます。
- 2
手元にあるモデルに重ねてみる
発注者から3次元モデルの提供がある案件なら、それを土台に使います。なければ、ドローンで撮った点群や、公開されている3D都市モデルから始める手もあります。座標の合わせ方だけは最初に確かめてください。
- 3
一現場・一目的に絞って試す
遠隔で進み具合を見るのか、クレーンの据え位置を検討するのか、目的をひとつに決めます。効果の判定がしやすくなり、続けるかどうかの判断も早くなります。
- 4
更新の担当と頻度を先に決める
誰が、いつ、どのデータを入れ直すか。日次なのか週次なのか。ここを決めずに始めると、二週間で画面の中の現場が止まります。担当が休んだときの代わりも決めておきます。
- 5
効果を時間と回数で記録する
移動が何回減ったか、確認に何分かかっていたか、手戻りが何件防げたか。感想ではなく数字で残すと、次の投資判断にも、発注者との協議にも使えます。
順に進めれば、デジタルツインは特別な設備投資というより、現場の記録の取り方を少し変える取り組みに近づきます。社内の仕事の流れを見直すという意味では、建設DXの一部として捉えるのが実務的です。どの業務から手を付けると効果が出やすいか判断しづらいときは、AI番頭のサービス内容をご覧いただくか、無料診断・お問い合わせからご相談ください。現状に合わせて、始められる順番を一緒に整理します。
よくある質問
QデジタルツインとBIM/CIMは何が違うのですか?+
BIM/CIMは、部材や構造物に属性情報を持たせた3次元モデルで情報を共有する仕組みで、計画側の土台にあたります。デジタルツインは、総務省の情報通信白書が示すとおりリアルタイム性と双方向性を特徴とし、現実で起きていることを測ってモデルに重ね、そこで得た判断を現実に返すところまでを含みます。実務では対立するものではなく、鹿島建設の3D K-FieldがBIMと連携して3次元表示を可能としているように、BIM/CIMのモデルを土台にデジタルツインを組み立てる形が一般的です。
Qデジタルツインとメタバースはどう違うのですか?+
どちらもデジタル空間を扱いますが、目的が異なります。デジタルツインは現実に存在する対象を写し取り、シミュレーションの結果を現実の判断に返すことを目的としています。現実側にデータの取得元があることが前提です。仮想空間で人が集まったり交流したりすること自体を目的とする使い方とは、出発点が違うと考えてください。
Q小さな会社でも導入できますか。費用はどれくらいかかりますか?+
費用は測る対象や範囲、使うサービスによって大きく変わるため、一律の相場は示せません。公表されている事例も、大規模な現場や施設を対象としたものが中心です。ただし、大林組が2023年4月に高性能PCや特別なスキルを必要とせずに構築できるアプリを発表しているように、道具の敷居は下がってきています。まずは一現場・一目的に絞り、初期費用だけでなく通信料や更新にかかる人の時間まで含めて見積もることをおすすめします。
Qまず何から測ればよいですか?+
自社が判断に迷っている項目から選ぶのが近道です。進み具合の把握に困っているなら出来形や資材の位置、安全の確認に困っているなら人と重機の位置、といった具合です。国土交通省のi-Construction 2.0でも、工程が複雑な工事で施工ステップをデジタル空間で再現し事前にシミュレーションを実施することが挙げられています。困りごとと測る対象がつながっていないと、データは集まっても使われないまま終わります。
Q発注者から3次元モデルがもらえない場合はどうすればよいですか?+
提供がない現場は珍しくありません。全国建設業協会の令和7年度調査では、3Dモデルの提供を受けたことがないという回答が66.6%でした。その場合は、ドローンやレーザースキャナで取得した点群、公開されている3D都市モデル、自社で作成した簡易なモデルなど、手元でつくれる土台から始めることになります。契約前の協議で、提供されるデータの有無と形式を確認しておくと、後の手間が変わります。
関連用語
BIM/CIM とは
建設事業の情報を3次元モデルなどのデジタルデータとして統合管理する取り組み。デジタルツインの土台になります。
詳しく見る →i-Construction とは
建設現場の生産性向上を目指す国土交通省の取り組み。デジタルツインの活用も項目として掲げられています。
詳しく見る →CDE(共通データ環境) とは
デジタルデータを集約・管理する共通の環境。どの版が正しいかを保ち、更新を続けるための仕組みです。
詳しく見る →建設DX とは
デジタル技術で建設業の仕事の進め方そのものを変える取り組み。デジタルツインはその一手段です。
詳しく見る →出典・参考
総務省「令和5年版 情報通信白書」デジタルツイン
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd131220.html
出典を開く →国土交通省「i-Construction 2.0 〜建設現場のオートメーション化〜」令和6年4月
https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/content/001738240.pdf
出典を開く →国土交通省 Project PLATEAU「About」
https://www.mlit.go.jp/plateau/about/
出典を開く →大林組「現場稼働状況をリアルタイムに反映する4D施工管理支援システムを開発」2022年2月25日
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220222_1.html
出典を開く →大林組「建設現場のデジタルツインを構築できる『デジタルツインアプリ』を開発」2023年4月25日
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20230412_2.html
出典を開く →鹿島建設「リアルタイム現場管理システム『3D K-Field』をスマートシティに初適用」2020年10月28日
https://www.kajima.co.jp/news/press/202010/28a1-j.htm
出典を開く →清水建設「バーチャル空間で稼働シミュレーションを重ね、工場の建設・運用を最適化」2022年12月16日
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2022/2022057.html
出典を開く →全国建設業協会「令和7年度 生産性向上の取組に関するアンケート 報告書」令和7年7月
https://www.zenken-net.or.jp/wp/wp-content/uploads/e66bc190550b6f84692cdd9fc4e3551e.pdf
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